序章「世界は大変だが、日本はチャンス!」では、今の金融危機をどう見るかが述べられています。
p.24 では、アメリカ経済のエンジンが壊れたとしています。爆弾が三つあるのだそうです。第1がサブプライムローン、第2がCDS、そして第3がクレジットカードそのものということです。乙は、クレジットカードそのものなどと思ってもみなかったので、驚きました。今やアメリカではローンを払えない人が多数いるのですね。
p.26 では、アメリカの住宅が経済のエンジンになっていたことを説明します。アメリカでは住宅を担保に借金して消費するというわけですね。それが大きく狂ったわけですから、今回の金融危機の根が深いことがわかります。
p.29 からはユーロの問題点を指摘しています。ユーロは16ヵ国の共同通貨なので、それを支える「国」がないというわけです。ユーロが安い方がいいという国と高い方がいいという国があり、ECB(ヨーロッパ中央銀行)は通貨防衛の力がないとしています。なるほど、こういう側面があるとは意識していませんでした。
第1章「世界を見て、マネー力を磨け」では、日本の中だけを見るのでなく、世界を見ようと呼びかけています。マネーの動きも、世界を眺めれば理解できるとのことです。話はわかりますが、実際はそういう視野を持つこと自体がむずかしそうです。
第2章「自分の資産は自分で守れ」では、世界のさまざまな経験を紹介し、世界の通貨を同時に考えることで、資産を守ろうとしています。
p.87 では、2004 年の新札発行に際して、新札と旧札の交換比を1対1でなく、新札のほうを強くしてしまおうという話が実際にあったようだと述べています。一種の切り上げです。実際には、新円切り換えを秘密裏に行えなかった(情報が漏れてしまった)ので、そのままになっているというわけです。乙は、この話はまったく知りませんでした。
p.88 では、日本の国債のデフォルトがあるとしています。その可能性はかなり高いのだそうです。乙は、なかなかこうはならないだろうと考えています。
p.95 では、石油産出国がドルを見限る可能性があり、そうなるとドルが大暴落するとのことです。石油産出国の通貨はドルと連動していますが、そのようなドルペッグ制を維持するかどうか、2007 年末には真剣に検討されていたのだそうです。ドルはこれからその地位を下げることになるのでしょうか。すでに資産の一部をドルの形で持っている身としては、このような議論は注目に値します。
p.98 では、ドルが基軸通貨から外れ、ユーロにシフトしていくと、ドルがユーロと一体になることも考えられるとしています。そんなことは本当に可能でしょうか。乙にはとても考えられません。
第3章「資産運用力は世界に学べ」でも、日本の中だけを見ないで世界に目を広げることを説いています。
p.115 では、「日本の金融機関には期待しない」と明言しています。乙もこの点は賛成です。
pp.120-123 では、欧米で住宅が資産になっている例を説明します。一方、p.124 では、日本の住宅はまったくそれと違ってしまっており、制度上、ひどい住宅にならざるを得ないとしています。国をどう設計するかという初期アイディアが悪ければ、あとはどうしようもなくなるのですね。
第4章「マネー脳の鍛え方」では、マネー力の強化にはITと英語が不可欠としています。英語でビジネスができることが必須なのだそうです。しかし、日本の現状はそれとほど遠いし、日本はそういう経験がないのではないでしょうか。
p.136 では、ニートやフリーターをなくしても経済力は上がらないと述べています。ニートやフリーターに職業訓練をするよりも、世界で通用する人材を育てるべきだとしています。大前氏の意見は理解できるのですが、今の日本ではなかなか受け入れられない考え方でしょう。
第5章「大前式資産形成術」と第6章「マネーの達人たちに学ぶ」は、大前氏の書き下ろしではないとのことで、実際読んでみるとややつまらないように思いました。
終章「いよいよ日本の出番」は、これからの日本を展望する章です。
p.199 では、オバマ大統領の取る景気浮揚策を予想していますが、景気浮揚の方法は基本的に二つしかないそうです。公共投資と戦争です。こういう割り切った話し方は、いかにも大前流の議論です。
p.204 では、アメリカで相続税が下がっている状況を説明し、2010 年にはゼロにするのだそうです。日本でも、1年か2年だけ相続税をゼロにしてみてはどうかとしています。アイディアはおもしろいですが、「相続」が発生するタイミングで、高額な相続税を取られたり取られなかったりということでは、国民の間に不公平感が生まれてしまうように思います。
ともあれ、大前流の割り切った考え方を知るには適当な1冊といえるでしょう。
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