タイトルに引かれて読む気になりました。今の不況をどうするべきか、高橋氏の考えを知りたいと思いました。
プロローグを読み始めてすぐ、p.8 には「日本経済の先行き不安の原因は、サブプライム問題ではありません。」と太字で書いてあります。まさに驚きです。そして、日本の景気低迷の原因は06年から07年にかけての金融引き締めだというのです。確かに、このころ日銀は誘導金利を引き上げました。それにしても、たった 0.5% です。金利というのは、5% くらいあるのが当たり前だと思いますが、それが 0.5% くらいの引き上げで経済にダメージを与えるものでしょうか。乙は疑問に思いました。
これについては、p.37 あたりで再度取り上げられますし、第5章「金融政策と株価の関係」が詳しく論じているところなので、高橋氏の主張を理解するためには、そちらを読むべきです。
pp.75-77 で個別物価と一般物価の違いについて説明しています。個別物価は個々の商品などの物価のことで、一般物価はその平均です。そこで、個別物価が上がれば一般物価も上がると思いますが、それがそう簡単な話ではないというのです。2007 年に値上げされた即席麺や食パンは、それぞれの業界が値上げできる環境にあったからメーカーが値上げしたのだとしています。そういわれればそうかもしれませんが、やはり原料が高くなれば値上げするしかない(そうしなければメーカーとしてやっていけない)ように思うのですが、どうなのでしょうか。
第4章「インフレ目標」では、日銀の金利政策のおかしさを述べています。この章は納得しました。物価上昇率に一定の目標を設けるほうがいいという話も、説得力がありました。
エピローグの中ですが、p.199 から財政再建について述べています。日本政府の借金 981 兆円は、国民ひとり当たり 800 万円にあたるという説明もよく聞きます。しかし、高橋氏によれば、国の借金を個人や家計にたとえるのはまずく、むしろ、企業にたとえるべきだとのことです。借金をしていても、それが当たり前の状態なのです。そして、借金 981 兆円が世界最大であると同時に、政府が 690 兆円もの資産を持っており、こちらも世界最大であると述べています。というわけで、国債がデフォルトになることは(しばらくは)なさそうです。
p.204 では、現在の非常時に対する具体的な提案が書いてあります。25兆円の量的緩和と25兆円の政府紙幣発行です。高橋氏が政府発行紙幣の賛成論者であることは以前から知っていましたが
2009.2.11 http://otsu.seesaa.net/article/114032329.html
それにしても、大きな構想です。実現はそう簡単ではないと思いますが、ぜひ、こういう話を政府に考えてもらいたいものだと思いました。
本書は、新書サイズですから手軽に読めます。今の日本経済を考える上で有意義な本だと思いました。
余談ですが、p.25 最後の1行に「株式などの債券」という言い方が出てきます。とんでもない間違いですが、著者の単純な勘違いなのでしょうね。
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