さて、この問題の発端は、サブプライムローンですが、それを束ねて(他のものも混ぜて)作った CDO、さらには、その中からリスク部分だけを抜き出した CDS
2008.11.26 http://otsu.seesaa.net/article/110155462.html
がどんどん大きくなっていったことわけです。
ローンが返せなくなった人が続出して今回の事態が起こったというわけですが、AIG の一部門が大量の CDS を引き受けていたということが問題になっています。CDS は一種のオプション取引ですから、わずかな手数料の分だけ儲かる場合が圧倒的に多いのですが、ごくたまに巨額の損失を出すという性質をもっています。
金融工学(ブラック=ショールズの式)を使って、どの程度の確率でデフォルトが起こるかに基づいて、それに見合う手数料を算出することができます。プラスマイナスゼロになるところが理論上の(儲けを計上しない)手数料です。実際は、モノラインと呼ばれる格付け機関の格付けが間違っていたわけですから、デフォルトの確率が違っており、正しく算出されていなかったということもあるでしょう。しかし、理屈の上では、CDS の妥当な引受手数料は計算できるはずです。
それに AIG が適当な比率の「儲け」を上乗せして、CDS の引受手数料を計算していたことでしょう。大量に CDS を引き受ければ、統計でいうところの大数の法則が働きますから、全体としては AIG が儲かる商品だったはずです。しかし、住宅価格の下落という変化が起こり、この儲けが吹っ飛んで、むしろ大変な負債を抱え込んだというわけです。
大前研一氏の「「産業突然死」の時代の人生論 第169回 ダメな金融機関をつぶしてよい理由」
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/a/175/index.html
を読んでいたら、驚くべき AIG の実態が書かれていました。
2000年ごろからAIGはCDSの販売で利益を伸ばしたが、手数料収入の大半を利益計上してしまい、将来損失への積み立てが十分ではなかった。ということはつまり、この手数料収入でものすごい額のお金(つまりボーナスや報奨など)をもらい、潤った人間がAIGにいるわけである。彼らこそがAIGを傾かせたことは言をまたない。極論すれば、こういう手合い(FPの創業時から2008年に辞職するまでトップを務めてきたジョー・カッサーノ氏以下、数百人のスタッフ)は刑務所に収監するべきであるとわたしは思う。
手数料収入は、CDS 引受手数料の全額ですが、本来の儲けはその一部でしかありません。しかも、いくら確率が低いとはいえ、デフォルトが起こることはあるのですから、それに備えて、利益を計上するのでなくむしろ積立をしておくべきだというのは当然の議論です。しかし、AIG の関係者がそれを食い散らかしてしまったのですから、これは大問題です。
今回、高額報酬を支払ったことも問題ですが、それ以前に、AIG に間違った仕組みを導入した人たちがいたことが一番の問題でしょう。そういうことが通ってしまっていたという時点で、AIG は(さらにはアメリカが)病んでいるといわざるを得ません。
大前氏の記事で、今回の金融危機の大きさ、根の深さに改めて思いをはせることになった気がしました。
今回のアメリカ発の金融危機は、いろいろな「犯人」がからんでいるようですが、大前氏の記事は、AIG がいかにダメ会社であったかがよくわかる記事でした。こういう切れる人の書いた記事は大変おもしろく、また有益だと思います。