今の金融危機の時代を考える上で有用な本かと思って読んでみました。
「アメリカ金融帝国」がなぜ生まれたかという問題はおもしろいと思いました。p.86 によれば、「強いドルが国益だ」というルービン財務長官の主張が基本となったようです。強いドルでどんどん輸入をしようということです。こうして、p.89 で述べるように、グローバル化で貯蓄が国内になくても他国の貯蓄を使えばいいという考え方が出てきます。日本は貯蓄率が高いわけですが、そうやって貯め込んだお金をアメリカが使ったということになります。
このあたりはおもしろかったのですが、2点ほど間違いがあり、乙はこの段階で興ざめしてしまいました。
(1) ドルコスト平均法の間違い
p.174 では、ドル・コスト平均法の説明が出てきます。しかし、それが間違っています。「ある投資家が1年間、毎日、ある会社に投資し、継続して1株ずつ購入している」ことだというのです。違います。「1株ずつ」ではなく「一定の金額ずつ」です。購入できる株数は、株価の上下によって変わってきますが、そこがドル・コスト平均法のいいところなのです。
こうやって株を買うと、1年経てば購入価格は1年移動平均線と一致するというわけです。それはそうですが、ドル・コスト平均法ならば、(全体で買った株式数ないし資金量が同じであれば)1年移動平均よりもコストが低くなったと考えられます。
(2) 日経平均を買い続けた場合の損失の計算
pp.175-176 では、88年以降、毎月、日経平均を一定単位で購入することにした仮想投資家を考えています。そして、20年に渡って買い進めたとして、08年11月に株をすべて売ると、49% も損失が出るというのです。
これまた間違いです。配当が計算に入っていません。配当は、株価を基準に考えると、たいてい 1% とか、2% とか、一見大した金額ではないけれど、20年も経つとかなりのものになります。それを考えれば、20年投資を続けた仮想投資家が単純に 49% の損失になったとはいえません。
こういう計算をするときの配当の大きさについては
http://blog.livedoor.jp/tsurao/archives/1045153.html
が参考になります。
奥付によると、著者の水野和夫氏は三菱UFJ証券参与・チーフエコノミストで、早稲田大学大学院経済学研究科修士課程修了とのこと。ちゃんとした知識を学んだ専門家のはずですが、こんな間違いをしていていいのでしょうか。乙はかなり気になりました。
というわけで、いいところもある本なのですが、乙は読み進める気力をなくしました。
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