読んだ後で、少し後悔した本です。
本1冊が年金未納問題を扱っているわけではありません。それは第4章であり、全 206 ページ中の 73 ページほどです。最近流行の、一部の章の題名をそのまま書名にする手法です。
第1章「学力や思考力は日常の会話方法で飛躍的にアップする!」、第2章「なぜ人は「宝くじの行列」に並んでしまうのか」の二つは、数学ないし確率論の世界を描きます。本の主題とはあまり関係しないように感じました。
第3章は「なぜアメリカの住宅ローン問題で私たちの給料まで下がるのか」で、今回の経済危機の話をわかりやすく述べています。しかし、ここもあまり新鮮味がないように思いました。
第4章は書名と同じです。いうまでもなく、ここが記述の中心です。
p.138 では「国民年金に加入すると損するって本当?」とあります。そして、現在20歳になる人でも、今年生まれた赤ちゃんの場合でも、実際に国に払う「保険料」よりも平均的に将来もらえる「年金」が 1.7 倍になるということを示し、だから損することはないと主張しています。しかし、乙は、これは比較の対象がずれているように思いました。たとえば、長期金利が 1.5% あるとすると、72の法則で、72/1.5=48 年で2倍になってしまう計算です。20歳の人が65歳で年金をもらうまでには45年の長期運用が可能ですから、比べるものはきちんとさせておかなければなりません。1.7 倍に増えたとしても、まあそんなものなのかもしれません。
pp.153-155 で、国民年金の未納者が増えても減っても、給付される金額にはほとんど差がないというデータが示されます。しかし、なぜ、こういう計算になるのか、ここを読んだだけではよくわかりません。
この種明かしは p.159 でなされます。国民年金は、第1号加入者だけでなく、第2号加入者(会社員や公務員など)、第3号加入者(第2号の配偶者)が大量にいるから、第1号保険者の未納率が増減しても、国民年金にはほとんど影響がないというわけです。
p.172 では、したがって、未納者が増えると、年金が破綻するから困るのではなく、未納者は無年金者なので、そういう人が増えると社会的な問題が起こって困ることがあるということです。
国民年金は、そもそも給付の比率が低く、未納率があがっても破綻はないということですね。
書かれている内容は正しいと思いますが、これをいうのに新書1冊はスペースのとりすぎのように思いました。もっと薄くてもよかったでしょう。もっとも、それでは新書として成立しないでしょうが。
というわけで、乙の感想としては、内容があまりないものを読んでしまったということです。
なお、本書はイラストが多用されていますが、乙は、これは必ずしも成功していないように思いました。イラストで描かれた内容は本文でもそのまま書かれていることの繰り返しが多いからです。これまた、内容を水増ししているにすぎません。
【関連する記事】
- 香川健介(2017.3)『10万円からできる! お金の守り方教えます』二見書房
- 大江英樹、井戸美枝(2017.2)『定年男子 定年女子』日経BP社
- 天達泰章(2013.6)『日本財政が破綻するとき』日本経済新聞出版社
- 安間伸(2015.11)『ホントは教えたくない資産運用のカラクリ 投資と税金編 ..
- 橘玲(2014.9)『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 2015』幻冬舎
- 橘玲(2014.5)『臆病者のための億万長者入門』(文春新書)文藝春秋
- ピーター・D・シフ、アンドリュー・J・シフ(2011.6)『なぜ政府は信頼できな..
- 小幡績(2013.5)『ハイブリッド・バブル』ダイヤモンド社
- 吉本佳生(2013.4)『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)講談社
- 川島博之(2012.11)『データで読み解く中国経済』東洋経済新報社
- 吉本佳生(2011.10)『日本経済の奇妙な常識』(講談社現代新書)講談社
- 野口悠紀雄(2013.1)『金融緩和で日本は破綻する』ダイヤモンド社
- 吉田繁治(2012.10)『マネーの正体』ビジネス社
- 午堂登紀雄(2012.4)『日本脱出』あさ出版
- ウォルター・ブロック(2011.2)『不道徳な経済学』講談社+α文庫
- 内藤忍(2011.4)『こんな時代を生き抜くためのウラ「お金学」講義』大和書房
- 瀬川正仁(2008.8)『老いて男はアジアをめざす』バジリコ
- 増田悦佐(2012.1)『日本と世界を直撃するマネー大動乱』マガジンハウス
- 藤沢数希(2011.10)『日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門..
- きたみりゅうじ(2005.10)『フリーランスを代表して申告と節税について教わっ..