簡単にいえば、もっと国債を発行して、その金で日本経済を進展させようという主張です。
本書中にはさまざまな図表が豊富に収録され、著者の主張を客観化しようとしているようすがわかります。好感が持てます。
第1章は「「国が借金で大変」の大ウソ」です。60ページほどですが、ここが本書の中心です。
第2章「国の借金をゼロにする秘策」もそれに次ぐ内容で、たいへん興味深いです。
第3章「日本の GDP が伸びない本当の理由」は政府が支出を増やさないためで、だから国債を発行して政府支出を増やそうという主張です。第1章〜第2章を踏まえた提言の章です。
ポイントは、pp.177-179 で、日本政府がジンバブエのようにハイパーインフレに持っていって国の借金をチャラにしようとするかということを論じています。結論として、日本はデフレだから、通貨を過剰に発行してもインフレにはならないとしています。
第4章「財政政策が国の命運を分ける」では、政府や日銀の考え方を、世界の各国と比べつつ、その妥当性について論じています。
第5章「日本の目指すべき道」は結論のような内容で、将来展望・提言を述べています。
一読して、かなり説得力のある本だと思いました。
乙は、政府発行紙幣について、賛成だと述べたことがあります。
2009.2.11 http://otsu.seesaa.net/article/114032329.html
国債の発行は、政府が使えるお金を用意する点で、政府発行紙幣と似た側面を持ちます。政府発行紙幣を永遠に流通させるのでなく、ある期間だけにとどめようとすれば、国債の発行とさらに似てきます。国債は利子を払うけれど、政府発行紙幣は利子を払わないというくらいの違いしかありません。
しかし、本書の中で、一番問題なのは、もっと国債を発行せよと主張している割には、その総額についてまったく論じていない点にあります。
日本の最近の税収と国債の発行高はどれくらいなんでしょうか。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090523-00000007-mai-bus_all
によれば、2008 年度の場合、税収が 44 兆円程度、2009 年度の新規国債発行額は 44.1 兆円だそうで、今や国債の発行額が税収を上回る事態になっているわけです。
ここで、国債を 50 兆円追加発行せよというなら、そんなに発行して大丈夫かと心配になります。いえいえ、著者によれば問題ないはずです。しかし、200 兆円ではどうでしょうか。大丈夫だというなら、1000 兆円はどうでしょうか。単年度で 1000 兆円も発行する事態になったら、国債の発行総額は 1.5 京円を越えているはずで、利率が 1.5% としても、国債の償還に1年あたり 200 兆円も必要になります。そんな税収はありませんから、国債の償還のための国債の発行ということになります。つまり、自力で償還できないということで、永遠に返せない借金となります。こんな事態になれば国債に信任がなくなります。国債の利率が上昇し、いよいよ首が回らなくなり、最後は「国債が償還できない」となります。これが財政破綻です。
本書では、いくらまでなら発行して大丈夫かという問題を避けています。しかし、これが実は一番の問題なのではないでしょうか。もちろん、はっきりとしたところは誰にもわからないでしょう。でも、50 兆円と 1000 兆円では、話がまったく変わってきます。それがだいたいいくらくらいなのか、±2倍程度の誤差(「200 兆円」という場合は「100 兆円〜400 兆円」という意味)があってもいいので、ひとこと述べてほしかったと思います。
まさか、国債を無限に刷っても大丈夫という主張なのでしょうか。
もしも、金額で示すのが不適当だというなら、GDP の何倍程度というのでもいいです。
ちなみに、乙が政府発行紙幣のことを考えていたときは、総額はせいぜい50兆円程度かなと思っていました。
【関連する記事】
- 香川健介(2017.3)『10万円からできる! お金の守り方教えます』二見書房
- 大江英樹、井戸美枝(2017.2)『定年男子 定年女子』日経BP社
- 天達泰章(2013.6)『日本財政が破綻するとき』日本経済新聞出版社
- 安間伸(2015.11)『ホントは教えたくない資産運用のカラクリ 投資と税金編 ..
- 橘玲(2014.9)『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 2015』幻冬舎
- 橘玲(2014.5)『臆病者のための億万長者入門』(文春新書)文藝春秋
- ピーター・D・シフ、アンドリュー・J・シフ(2011.6)『なぜ政府は信頼できな..
- 小幡績(2013.5)『ハイブリッド・バブル』ダイヤモンド社
- 吉本佳生(2013.4)『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)講談社
- 川島博之(2012.11)『データで読み解く中国経済』東洋経済新報社
- 吉本佳生(2011.10)『日本経済の奇妙な常識』(講談社現代新書)講談社
- 野口悠紀雄(2013.1)『金融緩和で日本は破綻する』ダイヤモンド社
- 吉田繁治(2012.10)『マネーの正体』ビジネス社
- 午堂登紀雄(2012.4)『日本脱出』あさ出版
- ウォルター・ブロック(2011.2)『不道徳な経済学』講談社+α文庫
- 内藤忍(2011.4)『こんな時代を生き抜くためのウラ「お金学」講義』大和書房
- 瀬川正仁(2008.8)『老いて男はアジアをめざす』バジリコ
- 増田悦佐(2012.1)『日本と世界を直撃するマネー大動乱』マガジンハウス
- 藤沢数希(2011.10)『日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門..
- きたみりゅうじ(2005.10)『フリーランスを代表して申告と節税について教わっ..
いつも拝見させていただいております。
筆者のブログ
http://blogs.yahoo.co.jp/eishintradejp
にて質問コーナーが設けてありますので、
直接疑問点をぶつけてみてはいかがでしょうか?
お世話になります。
>本書では、いくらまでなら発行して大丈夫かという問題を避けています。…ひとこと述べてほしかったと思います。
とのことですが、本のp.266に、ひとこと述べさせて頂いております…
「
日本の財政赤字を(GDP比で)3・2%から12・3%へ拡大するとすればおよそ47兆円というかなり大規模な追加支出ができることになる。
イタリアでは政府がこれだけの大きな赤字を出しても、85年から86年にかけてインフレ率は9%から6%へと低下していたのだから(図表80)、今の日本でそのような積極財政をやったとしても、さしたるインフレにはならないであろう。
」
なお、もっと詳細な話は、書きアドレスのコメント欄に書き込みましたので、よろしければご参照ください:
http://blogs.yahoo.co.jp/eishintradejp/folder/972307.html
コメント欄でご回答いただき、ありがとうございます。
本書を読んでいたときは、p.266 がそれに該当するとは思えず、気が付かないままに読み過ごしてしまいました。失礼しました。
また、
http://blogs.yahoo.co.jp/eishintradejp/folder/972307.html
のほうのコメントも拝見しました。
「上限というものはありません。」には、かなりショックを感じました。
「重要なのは絶対量よりも、単位時間当たりの発行量、つまり、増発のスピードです。」という視点も新鮮でした。
「今の日本のGDPで考えると、80年からの15年間のイタリアでは2500兆円、二次大戦アメリカの5年間では1000兆円を超えて国の借金が増えました。このようなものすごいペースで国の借金を増発しても大したインフレ率はならなかったわけですから、その辺りが目安になるでしょう。」ということで、数千兆円までも見越してこの議論を張っていることに驚きました。
このあたり、本当にこれでいいのか、自分でもまだ納得したわけではないのですが、本書を一読したときよりもインパクトのあるコメントでした。
とりあえず、御礼まで。