本書は、現代日本を「知の衰退」つまりものを考えなくなった社会ととらえ、きちんと考えれば、こんなのが日本のあり方になるというようなことを述べたものです。さまざまな提言を含み、おもしろく読みました。
第2章で官製不況の根が「知の衰退」だと説いています。第4章では政局も「知の衰退」でとらえることができるとしてます。第5章はネット社会をどう見るかを論じています。第6章は無欲な若者と学力低下の問題を扱います。第7章は教育改革です。第8章は「低IQ社会」で得をしている人として、政治家、役人、などをあげています。第9章は勝ち組の話、第10章は教養論です。
実に幅広く何でも論じてしまうあたり、大前氏らしい語り口です。p.74 では、自身の講演料が5万ドルであることを明示しています。けっこうな額です。大前氏は世界をあちこち飛び回っているとのことですから、1年間に 60 回講演すると想定すると、それだけでざっと3億円の収入があるわけです。大前氏の場合、講演だけでなく、本の印税や大学教員としての給与所得、会社経営者としての収入もあるようですから、支払っている所得税もさぞや多いことでしょう。(それにしては高額納税者ランキングなどでは大前氏の名前などは聞いた記憶がありませんが、……。)
それはともかく、こんな中で、一番興味深いのは、第3章「1億総「経済音痴」」でしょう。ゼロ金利でも銀行に預け続ける国民を批判し、海外の高金利を紹介し、高金利の国に資金をシフトして、積極的に投資するべきだと説きます。
p.127 では、日本国債をもっともリスキーな金融商品として、そんなものを買う人間が経済音痴なのだとしています。
高金利の国に投資すればもうかるかという問題については、
2009.4.11 http://otsu.seesaa.net/article/117253628.html
2008.5.23 http://otsu.seesaa.net/article/97628420.html
で乙の考え方を示しましたが、高金利でももうからないと思います。
以前の乙は大前氏と同じように考えており、したがって、海外投資を積極的に考えていたのですが、最近はそうでもないと考えるようになりました。
乙は、日本国債についても、
2008.5.23 http://otsu.seesaa.net/article/97628420.html
で、投資を考えてもいいのではないかとしています。
というわけで、大前氏の話を全部信じているわけではありませんし、第3章は特に問題があると思うのですが、それはともかく、読み物としてはおもしろいと思います。
読後感としては、大前氏は強い人だということです。とてもマネはできません。
ラベル:大前研一
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