日本語のタイトルは、ちと大げさです。英語の原題「The China Price」のほうが内容にピッタリです。
参考文献も含めて 450 ページほどの分量で、だいぶ長いです。読み切るのに一苦労します。
中国の工場では、なぜ安く品物が作れるのかを解明した本です。つまりは、低賃金で長時間働く労働者を使っているということです。
p.64 では、ウォルマートの工場監査の話が出てきます。ウォルマートは、自社が購入する物品がきちんと管理された工場で、ちゃんと賃金の支払いを受け、残業などのない労働者によって生産されたものであることを要求しています。そのため、「工場監査」があるのです。労働者の勤務時間など徹底した監査があります。賃金はもちろん最低賃金以上でなければなりません。
しかし、ここで語られるのは、工場監査で見せる工場と、見せることのない第2工場の存在です。もちろん、後者のほうが生産量が多いわけです。中国ならではのだましあいが展開されているわけです。第2工場の勤務のあり方は、それはひどいものです。
p.77 では、ウォルマートの監査対策としてどんなことをやっているかが語られます。タイムカードの偽造や賃金台帳の捏造など、考えられることが全部行われているのです。
p.292 からは、ウォルマートの監査のしかたが説明されます。なかなかきびしいものです。しかし、これをかいくぐる工場が後を絶たないというのも実態の一側面なのです。
p.307 では、監査で評価されるのは偽造技術だということが書いてあります。せっかくの厳しい監査も偽造によってまったく無意味になっています。
p.315 にあるように、結局、監査もワイロで決まってしまうとのことです。役人も、工場主も、労働者も、みんなが満足しているのに、ウォルマートは一体何をやっているのかといった論調です。
なぜ、こんな工場がたくさんあるのか。その原因は、いろいろなものが複合しているのは明らかです。中でも、p.340 にあるように、「投資家の責任」も大きいとのことです。また、p.344 では、安いものを求める消費者(つまり世界中の人々)も問題だとしています。
本書を読んで、中国の工場のひどさにあきれてしまいました。今、労働者も目覚めつつあり、今後は勤務条件などの向上が見込まれるとのことですが、中国は、本当にそういう状態になれるのでしょうか。
こういう本を読むと、中国投資に及び腰になってしまいます。
とはいえ、エマージング諸国に投資するインデックスファンドを持っていれば、当然、しかるべき比率で中国にも投資していることでしょう。まあ、投資家としては、中国を無視することはできないと思っています。でも、そういう小さい気持ちが集まって、「資本」として中国に流れ込むと、こういう社会問題を引き起こしてしまうわけで、何ともいえない気持ちになります。
膨大な参考文献が挙がっており、著者の徹底ぶりがわかりますが、できたら、もう少し記述を少なくしてくれたほうが読みやすくなったように思います。
【関連する記事】
- 香川健介(2017.3)『10万円からできる! お金の守り方教えます』二見書房
- 大江英樹、井戸美枝(2017.2)『定年男子 定年女子』日経BP社
- 天達泰章(2013.6)『日本財政が破綻するとき』日本経済新聞出版社
- 安間伸(2015.11)『ホントは教えたくない資産運用のカラクリ 投資と税金編 ..
- 橘玲(2014.9)『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 2015』幻冬舎
- 橘玲(2014.5)『臆病者のための億万長者入門』(文春新書)文藝春秋
- ピーター・D・シフ、アンドリュー・J・シフ(2011.6)『なぜ政府は信頼できな..
- 小幡績(2013.5)『ハイブリッド・バブル』ダイヤモンド社
- 吉本佳生(2013.4)『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)講談社
- 川島博之(2012.11)『データで読み解く中国経済』東洋経済新報社
- 吉本佳生(2011.10)『日本経済の奇妙な常識』(講談社現代新書)講談社
- 野口悠紀雄(2013.1)『金融緩和で日本は破綻する』ダイヤモンド社
- 吉田繁治(2012.10)『マネーの正体』ビジネス社
- 午堂登紀雄(2012.4)『日本脱出』あさ出版
- ウォルター・ブロック(2011.2)『不道徳な経済学』講談社+α文庫
- 内藤忍(2011.4)『こんな時代を生き抜くためのウラ「お金学」講義』大和書房
- 瀬川正仁(2008.8)『老いて男はアジアをめざす』バジリコ
- 増田悦佐(2012.1)『日本と世界を直撃するマネー大動乱』マガジンハウス
- 藤沢数希(2011.10)『日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門..
- きたみりゅうじ(2005.10)『フリーランスを代表して申告と節税について教わっ..