小宮氏は経営コンサルタントであり、明治大学大学院会計専門職研究科特任教授ということですから、専門家です。そういう人の書いた本ということで、どんな内容だろうと思って読んでみました。
p.42 リバランスを定期的に行ってはダメで、むしろ、景気の転換点で行うべきだとしています。p.204 でも、1年ごとの定期リバランスを否定しており、小宮氏の持論なのでしょう。
乙は、「景気の転換点で」というのがむずかしいように思いました。まずは、転換点をちゃんと知ることができるかという問題があります。次に、株価は景気の動向を半年くらい先取りするといわれており、景気の転換点では遅いのではないかという問題です。投資に時間が充分割けない人(現役のサラリーマン)にとっては、こういう作業はかなりむずかしいので、妥協して年1回のリバランスなどが推奨されるのではないでしょうか。
p.64 アメリカはごく一部の金持ちが株をたくさん持っているという話です。むしろ、日本人のほうが(そんなに金持ちでなくても株を買っているという意味で)株が好きなのだそうです。グラフトン通りさんのブログ
http://fortheopensociety.blog17.fc2.com/blog-entry-161.html
でもこの議論が出てきます。これは驚きでした。本書で一番おもしろい点かもしれません。
p.196 では、アクティブファンドは株価の上昇時にベンチマーク(平均株価)に勝つことがあるけれども、株価の下落時に負けることが多いと述べています。その理由として、p.197 では、ファンドのトレーダーは短期で評価されるから、株価が行き過ぎてしまうためだとしています。
そうかもしれません。
しかし、そんなふうに考えなくても、説明はできそうです。
アクティブファンドは、株価の上下が激しくない株(電力株とか?)を対象としないと仮定します。株価が上がらないのではおもしろくないからです。すると、それ以外の株を買うことになり、結果的にβ値(平均株価との連動性)は 1.0 より大きくなります。つまり、平均株価の値動きよりも大きな変動を示すことになります。これでいいと考えられるのは、株価が長期的には上昇すると考えられるからです。つまり、投資信託が勝ったり負けたりしていても、長期的に勝つとすれば、β値を 1.0 以上にする戦略をしていれば、最終的には儲けになります。
p.201 で、投資信託の選び方として、過去からの運用成績がよいものを選ぶべきだとしています。乙は、以前はこう考えていましたので、気持ちがよくわかりますが、今は、こういう考え方をしていません。過去の運用成績は、今後を保証するものではなく(まさに目論見書に書いてあるとおりです)、むしろ、値上がりを享受してきたからこそ、今後は運用成績が悪化するという考え方だって充分成り立つと思います。
p.229 エピローグでは「「低金利」が日本をダメにする」ということで、利上げをするように説いています。低金利を止めることでいろいろなメリットがあるのはその通りですが、一方デメリットもあります。中でも一番の問題は、国債の償却をどうするかという日本の財政赤字の問題です。
http://www.kh-web.org/fin/
によれば、日本全体の債務残高は 1090 兆円を超えています。
金利が上昇すれば、1% でも 10 兆円の利払いが必要になります。今すぐに必要になるわけではないけれども、次第にそうなります。今の日本の税収は 40-50 兆円くらいですから、10 兆円も利払いに消えてしまえば、予算編成が大変なことになります。
この点は本書に書かれていませんが、書かなくていいものでしょうか。
本書は、預貯金や投資について、ざっと知るには手頃な1冊です。しかし、内容的には、初心者向けではありません。現実に投資しているような人が読むといいでしょう。
ラベル:小宮一慶
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面白い本のご紹介ありがとうございます。
リバランスにつきまして私も乙さんとほぼ同意見です。リバランスの頻度を上げますとローリスク・ローリターンに、逆に下げるとハイリスク・ハイリターンになるのではないかと思います。
リターンを高くしたければこの本の著者のように景気の転換点に行えばよいでしょうが、読みが外れたときのリスクも大きくなると思います。どちらを取るかは個人の好みの問題ですが。
によれば、日本全体の債務残高は 1090 兆円を超えています。
とのことですが、これは全体の一部を見て大騒ぎするようなやり方で、かなり作為的です。
日本の国債の購入先はほとんどが日本国内であるが故、債権の所有者もほとんどが日本人です。
つまり、「旦那が妻からお金を有利子で借りている」状態であり、他人からお金を借りているわけではなく、お金が家庭の外に出て行っているわけではありません。
それどころか、日本政府の公表しているバランスシート上、日本は明らかな債権国です。
つまり、他の国からお金を毎年頂ける状況なのです。
日本国政府が国民に毎年利息を払うことは必ずしも問題ではなく、
問題はその与えられたお金がうまく経済の活性化に機能するかということです。
金利が上昇すれば数兆円の金利負担が発生するとはよく言われる議論ですが、すでに発行している国債は、個人変動金利国債をのぞいて固定金利なので、金利上昇に伴うインフレで却って返済負担は減少するのではないでしょうか?もちろん、金利上昇後の国債発行は難しくなるでしょうが・・・
国債が国内で引き受けられている限りは問題ではないという議論もよく聞きますが、乙は、夫婦でも別勘定で生活している限り、一方が他方に多額の借金をしている状態は好ましくないと思います。
いざとなれば、国が国民からカネを巻き上げるのでしょうが、それは望ましくないし、そうならないように国が考えていくべきで、だとすれば、夫婦間の借金はやはりなくす方向にせざるを得ないのではないでしょうか。
短期的には、返済負担が減少すると思いますが、長期的には、逆に負担が増大します。国債を償却しようにも借換債の発行しか手がありませんからね。
「今すぐに必要になるわけではないけれども、次第にそうなります。」というのは、そのあたりを指して言っています。
小宮氏の著書の違った角度から見ようとする視点が好きで、好んで読んでいます。
日本の債務がGDP比でこれほどまでに膨れ上がってしまった以上、容易に減らすことができないのは明らかです。
ただ、国は債務を返済しようとせずに、うまく付き合っていくのだろうと思います。
日本の債務を減らすべきかどうか、なかなかむずかしい問題です。
乙は、単純に、借金は返すべきだと考えていますが、廣宮孝信氏のように
2009.5.23 http://otsu.seesaa.net/article/120033075.html
そうする必要はないと主張する人もいるわけで、このあたりがむずかしいところです。
今のところは、何ともいえないというところでしょうか。