本文は 300 ページほどですが、その後ろに巻末の注記が 62 ページも付いています。参考文献も 11 ページにおよび、本格的研究書になっています。
ただし、実のところ、読みにくかったです。注が巻末にあり、しかもかなりの数の注が付いているということで、注まできちんと読もうとすると、本文の流れが断ち切られるし、しかも注の位置を探すのも大変になります。
本書でおもしろいのは、きわめて長期の視点で経済を見渡しているところです。ざっと 500 年を見据えて議論していきます。こんな超長期のデータはどれくらいきちんと揃っているのか、疑問に思う面もないわけではないのですが、一応、著者の姿勢は一貫しており、乙はかなり信頼できると見ました。
p.72 では、アジアの近代化を「収斂仮説」で説明しています。簡単にいえば、生活水準の低い国は豊かな国よりも平均して早く成長し、最終的には先進国の生活水準の7割から9割に収斂していくとのことです。過去 500 年の歴史で当てはまってきた考え方だというわけです。1600 年当時の先進国イタリア・スペインに対して、貧しい国・アメリカやオーストラリアがそうなっていきました。他にもたくさんの例が挙がっています。歴史は繰り返すといいますが、乙は、こんな長期的視点は持っていなかったので、驚きました。
p.113 では、グローバル経済圏企業(IT企業、鉄鋼、輸送用機器)とドメスティック経済圏企業(情報通信と電力以外の非製造業)にわけ、前者が一人あたり GDP できわめて大きく(つまり生産性が高く)、後者はそうでないことを示します。今の日本でドメスティック経済圏企業(中小企業のかなりがこれに該当しそうです)が成長せず、各種の問題の原因になっていると指摘します。この二つを区分する見方も新鮮でした。現代日本の状況をわかりやすく説明してくれます。読んでいて腑に落ちます。
p.182 では、インターネットの登場によって、それまでの国境線で区切られた「土地」という富の源泉を変えてしまったとしています。したがって、現在の成長物語は、pp.185-6 で述べられるように、小さな政府によってのみ達成可能になっているとしています。ここの記述も現代日本を考える上で重要な見方です。
pp.194-5 で述べられる3回の歴史的断絶(1回目は紀元前 8000 年の新石器革命、2回目は16世紀の大不況を中心とする(ヨーロッパの)経済変動、そして3回目が現在のIT革命)の話もおもしろかったです。今が3回目なのかどうかは、もっと時間が経ってから検証するべきでしょうが、そういう見方があるということ自体が興味深いのでした。
p.264 では、日本の就学援助率(生活保護を受ける家庭並みで、修学旅行費や給食費などが支給されるのが就学援助)を見ると、全国平均よりも高い地域として東京と大阪があるそうです。地方では職がないため、就職の機会が多い都会に若い人が集まり、最初は家賃の安い地区に住むことになります。東京のある区では就学援助率が 43.1% になるとのことで、驚きます。この区は足立区でしょう。
http://www002.upp.so-net.ne.jp/kyoiku-gifu/gakushukai-siryo9.pdf
このように、日本社会の中で二極化が起こりつつあるということです。
いくつか、乙がおもしろいと思ったところを抜き出しましたが、まだ他にもあります。本書は図表をかなりたくさん使い、数値などの裏付けを持って語っていきます。その意味で、信頼性がある本です。今の日本をどう眺めたらいいかを考える上での好材料であるともいえるでしょう。
直接投資に関わることではありませんが、視野を広げる意味では読んでも損はないように感じました。
ラベル:水野和夫
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