2009年11月29日

ジェレミー・シーゲルの「成長の罠」は新興国に当てはまるか(2)

 以前のブログ記事
2009.11.26 http://otsu.seesaa.net/article/133921112.html
の続きです。ジェレミー・シーゲルの『株式投資の未来』に関する考察を続けます。
 同書の p.264 には、図16-2「新興成長国のGDP成長率と株式リターン(1987〜2003年)」というグラフが掲載されています。
シーゲル図16-2.jpg
このグラフは、1987年から2003年までの新興成長国のGDP成長率と株式リターンの関係を示したものです。そして、両者に負の相関関係が認められるということから成長率の高い国に投資することは、むしろよくないことだとされます。
 そこで、この図16-2のデータを目で読み取ってみました。だいぶいいかげんですが、まあそれでも大勢に影響はないでしょう。乙の目には、以下のように見えました。
国名成長率ドル換算の
年率リターン
ブラジル
1.8
18.4
中国
9.3
-10.0
ベネズエラ
-1
4.2
アルゼンチン
1.3
17.7
メキシコ
2.9
22
 
2.2
5
 
2.6
10.4
 
2.7
12.5
 
2.9
4.2
 
3.2
10
 
3.35
4.9
 
3.7
2
 
3.7
5
 
4
10.5
 
4.3
14.5
 
4.4
15.3
スリランカ
4.5
2
 
4.8
6.2
 
5.9
19
 
5.9
6.8
 
6.1
6.8
 
6.2
4.8
 
6.8
6.8
シンガポール
6.95
5.3


 この数値に基づいて24ヵ国のデータで相関係数(ピアソンの積率相関係数)を計算してみました。計算結果は -0.400 と出ました。確かに逆相関(マイナスの相関)になります。
 『株式投資の未来』の p.263-4 には次のようにあります。
 中国(成長率が首位、リターンが最下位)とブラジル(成長率が下から2番目、リターンが上から3番目)を除いても、対象国のGDP成長率と株式リターンが逆相関の関係にあることに変わりはない。

 乙は、このグラフを見たとき、中国とブラジルを消してみたら、逆相関があるようには見えませんでした。
 そこで、上の数値化したデータを使い、中国とブラジルを除いて22ヵ国で相関係数を計算しました。結果は -0.089 となりました。確かに負の値ではありますが、ゼロにきわめて近く、これでは「逆相関の関係にある」とは言えないと思います。
 乙は、シーゲル氏の主張に疑問を感じました。
2009.11.30 追記
 この話の続きを
http://otsu.seesaa.net/article/134292992.html
に書きました。
 よろしければご参照ください。
posted by 乙 at 06:01| Comment(7) | TrackBack(0) | 投資関連の話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
もともとデータ数が24で相関係数が-0.4程度では有意(p<0.05)な相関とは言えませんね。初歩的な統計レトリックです。

シーゲル教授もこの程度かな?
それとも、経済学自体がこの程度で許される業界なんでしょうか。
Posted by 遠藤ヨウイチ at 2009年11月29日 12:38
遠藤ヨウイチ様
 おっと、乙もうっかりしました。
 相関の検定を行わなければなりません。
 データ数が24の場合は、自由度23のときですから、5%有意の相関係数は 0.398 ほどになるようです。
 0.4 はぎりぎりセーフ(有意な相関)と思います。
Posted by at 2009年11月29日 14:13
相関係数の検定では自由度はn-2になるのでぎりぎりアウトだと思います。まあ、大した違いではなく、その程度ということで。

あと、中国を除くだけでr=0.16程度になります。
Posted by 遠藤ヨウイチ at 2009年11月29日 20:00
GDP成長率が高い国の株価のパフォーマンスが良くないのはどうしても理解出来なかったので、少し調べたのですが、例えば中国を代表するA株についてですが、http://www.bloomberg.co.jp/apps/quote?T=jp09/quote.wm&ticker=SHASHR:INDによると「上海A株指数は時価総額加重平均指数。上海証券取引所に上場されている A株全体の 日中価格パフォーマンスを表す。A株は、中国の国内投資家および認可を受けた外国 機関投資家のみが取引に参加できる。
1990年12月19日を基準日とし、その日の時価 総額を 100 として算出される。」83年のデータは見つからなかったが(本当に83年にA株指数が存在するのかが疑わしいのですが、当時中国には国営企業しかなかったはずなので)
とにかく、1990年の株価が100、03年が1500前後なので、13年間でざっと15倍なので、GDP以上に株式市場の方が成長が大きいと思います。
Posted by Ganan at 2009年11月30日 02:31
先ほどのコメントの補足です。http://www.iti.or.jp/kikan54/54nagata.pdfによると、90年から03にかけて人民元がドルに対して多く見積もっても2分の1程度にしかなっていないので、それを考慮に入れてもGDPの成長率よりも株価収益の方が低いとは考えられないと思います。
Posted by Ganan at 2009年11月30日 03:33
遠藤ヨウイチ様
 乙の手元にあった渡邊宗孝・寺見春惠(1990)『ビギナーのための統計学』共立出版 のp.68 に「計算値が検定表の自由度(個数-1)の値より大または等しいとき「相関あり」と結論」とあり、また、p.138 の付表6に相関係数の検定(ピアソン)が掲載されているので、そこの値を(按分して)利用しました。それによれば有意であるということになります。
 なお、岡太彬訓他(1995)『データ分析のための統計入門』共立出版 の pp.120-121 には、自由度N-2のt分布を利用する検定方法が紹介されています。こちらによると、今回のデータでは、t=2.047 となり、t分布表の「自由度=14, p=0.025」のところの数値 2.145 よりも小さいので、有意でないということになります。
Posted by at 2009年11月30日 06:30
Ganan 様
 中国とブラジルの株価の問題については明日にでも記事にします。
Posted by at 2009年11月30日 06:41
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