2009.11.26 http://otsu.seesaa.net/article/133921112.html
の続きです。ジェレミー・シーゲルの『株式投資の未来』に関する考察を続けます。
同書の p.264 には、図16-2「新興成長国のGDP成長率と株式リターン(1987〜2003年)」というグラフが掲載されています。

このグラフは、1987年から2003年までの新興成長国のGDP成長率と株式リターンの関係を示したものです。そして、両者に負の相関関係が認められるということから成長率の高い国に投資することは、むしろよくないことだとされます。
そこで、この図16-2のデータを目で読み取ってみました。だいぶいいかげんですが、まあそれでも大勢に影響はないでしょう。乙の目には、以下のように見えました。
国名 | 成長率 | ドル換算の 年率リターン |
ブラジル | 1.8 | 18.4 |
中国 | 9.3 | -10.0 |
ベネズエラ | -1 | 4.2 |
アルゼンチン | 1.3 | 17.7 |
メキシコ | 2.9 | 22 |
2.2 | 5 | |
2.6 | 10.4 | |
2.7 | 12.5 | |
2.9 | 4.2 | |
3.2 | 10 | |
3.35 | 4.9 | |
3.7 | 2 | |
3.7 | 5 | |
4 | 10.5 | |
4.3 | 14.5 | |
4.4 | 15.3 | |
スリランカ | 4.5 | 2 |
4.8 | 6.2 | |
5.9 | 19 | |
5.9 | 6.8 | |
6.1 | 6.8 | |
6.2 | 4.8 | |
6.8 | 6.8 | |
シンガポール | 6.95 | 5.3 |
この数値に基づいて24ヵ国のデータで相関係数(ピアソンの積率相関係数)を計算してみました。計算結果は -0.400 と出ました。確かに逆相関(マイナスの相関)になります。
『株式投資の未来』の p.263-4 には次のようにあります。
中国(成長率が首位、リターンが最下位)とブラジル(成長率が下から2番目、リターンが上から3番目)を除いても、対象国のGDP成長率と株式リターンが逆相関の関係にあることに変わりはない。
乙は、このグラフを見たとき、中国とブラジルを消してみたら、逆相関があるようには見えませんでした。
そこで、上の数値化したデータを使い、中国とブラジルを除いて22ヵ国で相関係数を計算しました。結果は -0.089 となりました。確かに負の値ではありますが、ゼロにきわめて近く、これでは「逆相関の関係にある」とは言えないと思います。
乙は、シーゲル氏の主張に疑問を感じました。
2009.11.30 追記
この話の続きを
http://otsu.seesaa.net/article/134292992.html
に書きました。
よろしければご参照ください。
シーゲル教授もこの程度かな?
それとも、経済学自体がこの程度で許される業界なんでしょうか。
おっと、乙もうっかりしました。
相関の検定を行わなければなりません。
データ数が24の場合は、自由度23のときですから、5%有意の相関係数は 0.398 ほどになるようです。
0.4 はぎりぎりセーフ(有意な相関)と思います。
あと、中国を除くだけでr=0.16程度になります。
1990年12月19日を基準日とし、その日の時価 総額を 100 として算出される。」83年のデータは見つからなかったが(本当に83年にA株指数が存在するのかが疑わしいのですが、当時中国には国営企業しかなかったはずなので)
とにかく、1990年の株価が100、03年が1500前後なので、13年間でざっと15倍なので、GDP以上に株式市場の方が成長が大きいと思います。
乙の手元にあった渡邊宗孝・寺見春惠(1990)『ビギナーのための統計学』共立出版 のp.68 に「計算値が検定表の自由度(個数-1)の値より大または等しいとき「相関あり」と結論」とあり、また、p.138 の付表6に相関係数の検定(ピアソン)が掲載されているので、そこの値を(按分して)利用しました。それによれば有意であるということになります。
なお、岡太彬訓他(1995)『データ分析のための統計入門』共立出版 の pp.120-121 には、自由度N-2のt分布を利用する検定方法が紹介されています。こちらによると、今回のデータでは、t=2.047 となり、t分布表の「自由度=14, p=0.025」のところの数値 2.145 よりも小さいので、有意でないということになります。
中国とブラジルの株価の問題については明日にでも記事にします。