タイトルにある75兆円はどこに隠されているのでしょうか。25兆円は政府紙幣で、25兆円は金融緩和で、そして残りの25兆円は埋蔵金で調達しようというのが本書の基本的アイディアです。
本書を読んでいくと、日本の政治(家)の問題点などが浮かび上がってきます。著者は、元内閣参事官というだけあって、そのあたりの記述はきちんとしています。
序章「埋蔵金を埋め戻す官僚」では官僚たちがどんなことを考えているのかを描いています。自分たちの天下り、そのための基金の設立などが話題になります。p.43 では、電波オークションが提案されています。テレビ放送が地デジになるということは、実は、そのためにあいた帯域を売ることができるのですね。1兆円から数兆円になるという話で、それを特定のテレビ局に無料で免許を与えて使わせるのは大変な補助金を与えているようなものだと説きます。
第1章では「史上最大の恐慌の足音」ということで、今の日本の現状を述べます。
第2章「政府紙幣は麻薬なのか」が政府紙幣論の根幹です。なかなかおもしろい話で、乙も政府紙幣には賛成なので、興味深く読みました。p.105 では、1枚だけの政府紙幣を発行し、それを日銀に引き取らせるなどというアイディアも出てきます。驚きました。そんな手もあったんですね。
第3章は「世界大恐慌の教訓」で、戦前のことを回顧して述べています。
第4章「インフレ目標政策という世界標準」では、今の経済状況の中で財政や金融をどう考えるべきかを述べます。
p.180 では、日本の1990年代の経済政策を間違いの例としています。「景気対策に財政政策が効いたのは、為替が固定相場制だった頃までで、変動相場制の下では、ほんの少ししか効かないというのが、当時から既に世界の常識だった。」とあります。日本は公共事業などの財政出動に頼っていたので、赤字国債の発行は行ったものの景気浮揚はできなかったとしています。それはそうかもしれません。しかし、このような世界の常識が日本の政治家に受け入れられなかったのはなぜなんでしょうか。高橋氏は、事前に、身を持って、政治家に説明するべきだったように思います。(もしかしたら、したのかもしれませんが。)
この章は、インフレ目標論について述べるのですが、p.192 から、インフレ反対論への反論が書いてあります。いろいろなタイプの反論に逐次答えていく形になっています。ここはおもしろかったです。乙も、経済はややインフレにしておくのが望ましいと思っていますので、ここの議論を興味深く拝読しました。
第5章「構造改革の真実」では、今までの政治の流れをきれいに説明したものになっています。
pp.231-233 で、安倍政権下で、事務次官会議を経ないで政府答弁を閣議にかけるという大改革をやった話が語られます。乙はまったく意識していませんでしたが、すごい事件があったのですね。マスコミではまったく報道されませんでした。このあたり、日本のマスコミが病んでいます。
p.241 では、旧厚生省と旧労働省とのセクショナリズムが描かれます。5兆円のぶんどり合戦というわけで、凄まじい話です。乙は労働保険特別会計に5兆円もの埋蔵金があるとは知りませんでした。こういう話を聞くと、事業仕分けなどという1兆円にも届かないパフォーマンスをしていること自体、ずれているとしか思えません。
第6章は「強国として甦る千歳一遇の好機」です。日本をこんなふうにしたいという見取り図です。こういうのを読むと、なるほどと思ってしまいますが、もしも本当に実現するとなると、今の諸制度と比べてどちらがいいか、よくわかりません。
本書は、日本経済を捉え直すという点で、興味深い1冊といえるように思います。
ラベル:高橋洋一
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