乙は、ベトナム株についてはまったくわかりませんので、その部分はスキップし、他の部分についてコメントします。
p.16 から、「海外ファンドのリスクを知るべし」と題し、海外ファンド自体がハイリスクだといっています。そしてこんなふうにいっています:「1年間で何倍にもなるファンドというのは1年間で何分の一にもなり得るということである。」木戸氏によれば、海外ファンドで5年間、毎年20%利回りがあるからといって、これから先もそうなるというわけではなく、むしろ、5年間で2倍以上も値上がりしている金融商品を買っていると解釈できるというわけです。しかし、乙の考えでは、ここの数値は変です。投資した金額に対して、損益はある程度バラツキを持った数値としてとらえます。その「幅」は、利益のほうにも損失のほうにも同じような割合で伸びていると考えられます。確率分布でいえば、正規分布を仮定してもいいでしょう。ざっと見て、5割増と5割減が同じ確率になるでしょう。「何倍にもなる」はプラス数百%ということですから、その反対はマイナス数百%ということになります。しかし、投資では、一般に(信用取引などは別として)投資した金額以上に損失がふくらむことはありませんから、マイナスの上限は 100% に決まってしまいます。
こう考えると、つまり「1年間で何倍にもなるファンドというのは1年間で何分の一にもなり得るということである。」は「1年間で何倍にもなるファンドというのは1年間でゼロ(つまり破綻)にもなり得るということである。」としなければなりません。あるいは、より正確には「1年間で2倍以上にもなるファンドというのは1年間でゼロにもなり得るということである。」となりましょうか。
木戸氏の主張は、過去5年間にわたって年20%の利回り実績を上げてきたファンドであっても、これから先もそうなるという保証はなく、むしろ、5年前の2倍に値上がりした金融商品を買っていることであり、破綻の可能性もあるのだということです。この主張は、間違いではありませんが、問題は、今後の破綻の可能性と、今後も同様に年20%の利回りを上げる可能性のそれぞれがどれくらい大きいかです。今までの実績を考慮すれば、破綻の可能性の方が小さく、年20%の利回りを得る可能性のほうがずっと大きいように思います。仮に、破綻の可能性が年20%のリターンを得る可能性の 1/5 だとすると、期待リターンはちょうどゼロになりますから、破綻の可能性がこれより小さいと判断できれば、投資していいということになります。
さて、1年後に 1/6 の確率で破綻してゼロになり、5/6 の確率で 20% のリターンが得られるファンドがあると仮定しましょう。5年後、このファンドがどうなるかを計算してみると、5年後までに破綻する可能性は 1-(5/6)**5≒0.6 で、破綻しなければ(約4割の確率で)2.488 倍に資産が増えることになります。期待値はこれでもゼロです。世界中のファンド(のうち年20%の利回りを出しているもの)が過去5年で6割ほど破綻しているでしょうか。とてもそうは思えません。
ということは、1対5の確率でうんぬんという考え方が間違いで、破綻する可能性はもっとずっと低いことになりそうです。その分、期待リターンはゼロではなく、相当に高いということになるかと思います。
もちろん、破綻の可能性はゼロではありませんから、万が一には投資金額がパーになってしまうのですが、あまりそれをおそれても萎縮するだけのように思います。
p.59 から、REIT のマイナス面を説いています。不動産価格の上昇で安定した利回りが期待できず、むしろ、不動産価格の低下が起こり、REIT も値を下げるだろうということです。乙は、よくわかりませんが、いくつかの新聞記事などで似たような意見を見かけましたので、たぶん、こういう考え方が当てはまるのだろうと思っています。
p.64 から日本株の「推薦銘柄」6種が書いてあります。乙は、こういう内容が大好きです。(これにしたがって実際に株を買うことはありませんが。)
さて、木戸氏はどれくらい今後の株価をあてることができるのでしょうか。この本の記述によると、出版後1年後くらいを目安としているようなので、この部分は 2006年6月ころに6銘柄の株価を確認した上で書くことにしましょう。
2006.7.6 追記
http://otsu.seesaa.net/article/20346672.html
に続きます。
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