http://otsu.seesaa.net/article/13541062.html で書きましたが、この本は、浅井氏によるパニック本の最初のものだと思います。
1930年代の大恐慌と、それ以前のいくつかの恐慌とがどんなものであったかを述べ、それと同様のことが1990年代前半に日本で起こるということが書かれています。
この本は、1992年の刊行ですから、バブルがはじけた後です。日経平均株価の1989年の最高値 38915円から株価が大幅に下がり、浅井氏が本を書いた1992年3月には2万円を割りました。
日経平均株価の具体的な数値は http://www3.nikkei.co.jp/nkave/data/index.cfm を見てください。
p.244 では、1993年秋に世界大恐慌が発生すると予想しています。(p.245 では「相場の底は1993年か1994年となるにちがいない」といっています。)この段階で、日経平均株価は 4000 円だというわけです。実際には、日経平均株価は2003年4月に最安値7607円まで下がりましたが、1993年は、16000-21000 円あたりを上下していました。1994年は、ほぼ2万円前後で安定していました。この点からは、浅井氏の予測は当たらなかったと言えそうです。
また、p.244 では、不動産価格についても、1992年春の水準から2〜3年で半分以下になると予測しています。不動産価格がどうなったかを明確に示すことはむずかしいのです(地価に限定しても、都市部と非都市部では相当に違います)が、日本不動産研究所の市街地価格指数 http://www.reinet.or.jp/jreidata/a_shi/ によれば、1992から1995ころまでは、最高価格地の変動率が1年で -20% から -30% くらいですから、浅井氏の予想はまああたったと言えるのではないでしょうか。
さらに、浅井氏は東京大地震を予測していますが、これはご愛敬とでもいうべきものでしょう。
さて、実際は「世界大恐慌」と呼ばれる事態にはなりませんでした。
それは、過去の失敗に学んで、昔と違って経済のコントロールがうまくなったということではないかと思います。急激な変動を避けるようにする工夫は、(昔と違って)いろいろ可能なはずです。制度が未整備の1930年代に起こったことが、現代でも同じように起こるとは、考えにくいと思います。というか、1930年代の恐慌を経験して、そういうことが起こりにくいように制度設計を変えてきたと見ればいいでしょう。
あるいは、その後の日本の流れを見ていると、浅井氏の著作で予測していることが、もっとゆっくり起こったと考えると、実際に近くなります。銀行の不良債権問題など、まさにこの本が予測する通りかもしれません。
ということは、浅井氏が数年先に起こると述べていること(今の著作でも)に対して、15年先にそうなると考えるといいということです。危機に対して、時間はたっぷりあるからゆっくり取り組もうという態度でいかがでしょうか。
ともあれ、乙は、14年も経ってからこういう本を読むのもおもしろいものだと思いました。
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