この本はいろいろと刺激がありました。国家破産からは簡単に逃げられないと割り切っている点は説得力があります。
pp.223-228 で述べられるように、数億円以上の資産があれば、PT(Perpetual Traveler)になってしまう手がある(それで日本の破産から逃れられる)というのはその通りだと思います。しかし、ゴミ投資家の乙にはそんなに資産がないので、日本から逃れられません。
乙が驚いたのは、「はじめに」の pp.009 以降の記述で、海外投資(特に投資信託)で何千万円かの虎の子を失ったという被害者が続出しているというくだりです。訴訟なども起こされているそうですが、「被害者=投資家」が(海外投資を薦めた)評論家を訴えているようで、乙には、何のことか、理解できません。評論家はあくまで評論家であって、訴訟の対象にはならないでしょう。訴えるなら、海外のファンド会社でしょう。しかし、それだって目論見書をちゃんと読めば、資産がゼロになることもあると書いてあるでしょうから、訴訟は却下されるでしょう。乙はその評論家の言を単純に信じた投資家が悪いのだと思います。中には悪徳商法もあるとは思いますが、(そして、それはネットの中でもリアル社会の中でも同じですが)それを信じて行動するかどうかはすべて投資家の責任のように思います。
p.039 では、預金封鎖はまだ先の話と書いていますが、乙も同じ意見です。その前にインフレが起こるはずです。p.085 では、借金超大国がいつ破綻するか、その予測は難しいと書いてあります。そうなんです。そこが一番の問題なんです。このままではうまくないのはわかっていますが、破綻するのかどうか、するとしたらいつなのかがわからなければ、対処のしようがないわけです。p.087 では、インフレすらいつ起こるかわからないと書いてあります。
pp.099-127 は「アメリカの借金を背負い込む日本」が描かれています。アメリカ国債を買い続ける日本のおかしさが指摘されています。これは、国家破産とは別に考えるべき政治問題です。pp.167-199 の「下請け国家に堕ちた日本」では、日本はアメリカの51番目の州ではなく、単なる下請け国家、つまり属国か植民地だと述べています。これも、国家破産とは別の政治問題です。
pp.146-149 に、アメリカがやるかもしれない「荒技、秘策」が二つ紹介されています。一つは、新ドル札を発行し、旧ドル札はアメリカ国民は無制限に新ドル札に交換し、国外の旧ドル札は新ドル札に換えないと宣言するやり方です。これで旧ドル札は紙くずになるので、アメリカは対外債務を一気に減らせるというわけです。旧ドル札で買った旧国債は旧ドル札で償還されるから、国債も紙くずになります。しかし、これは、国債を買った人に対して、使えるドル札で償還しないということで、国家的なウソになってしまいますから、デフォルトと同じことで、まず起こりえないでしょう。
もう一つは、新ドルと旧ドルの交換比率を1対2にするデノミです。ここの記述は、乙には理解できませんでした。2旧ドルが1新ドルに読み替えられるデノミによって、日本保有のアメリカ国債が一気に半分になってしまう(つまり借金が半分になる)というわけです。それはそうですが、しかし、半分になった資産の価値(たとえば、それで買える石油の量)は、以前の2倍あるわけで、それを日本からの借金として、アメリカが後日返そうとすれば、デノミで給与も預金も半分になっていますから、以前の2倍働いて返す必要があります。つまり借金は、見た目には半分になりますが、実質的には変わらないのではないかと思うのです。旧1ドル=100円がデノミ後に新1ドル=2旧ドル=200円になるということは、借金の額が半分になっても、円に両替すれば借金額は変わらないのです。藤井氏は、これでなぜアメリカの借金が半分になるといっているのでしょうか。乙には理解できませんでした。
全体として、パニック本の中では、比較的冷静に書かれている本だと思います。
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