タイトルとサブタイトルで本書の中身が想像できます。そして、その通りです。著者の松谷氏は大学教授(ただしその前は大蔵官僚)というだけあって、各種データに基づいて議論を展開していきますので、説得力があります。
日本の少子高齢化は、すでに多くの人が知っていることだと思います。それが、今後の日本のあり方にどのような影響を与えるか、我々はどうするべきかを説いた本です。なお、著者は「少子化」ということばを使わないようにしています。
乙が読んで興味深く思ったところを中心に、内容の一部をかいつまんで紹介しましょう。
p.21 では、外国人労働者を活用することは、後世代に負担を移転することであり、人口減少問題に対する解決策にならないことが説かれます。もちろん、今から出生率を上げて、子供をたくさん作ったとしても(そのように誘導すること自体が困難ですが)、かえって、非生産人口を増やすだけで、そういう子供たちが生産年齢に達して働き出すまでに二十数年かかるので、今さら日本経済の縮小を押しとどめることはできません。
というわけで、日本人はそのような「人口減少経済」を受け入れるしかなく、自ら考え方を変え、生活のしかたを変えていかなければなりません。企業も目指すべき方向を変える必要があります。「売り上げを伸ばす」が目標ではなくなるのです。
p.12 日本は人口の「谷」(産児制限によって人口が少なくなったこと)が高度成長をもたらしたと説明します。ところが、今後は人口の「谷」が経済成長率を押し下げるというのです。こんな簡単な原理で日本経済が動いていたとは驚きです。経済は人口で決まる部分が大きいのですね。
p.104 で、人口減少高齢化の影響を強く受けるのは、大都市圏だという話です。これまた興味深いものでした。つい、今までの延長で、地方から若い人が都会に出て行く傾向だけを考えてしまいがちですが、年齢別人口構成を考えると、そうではないのですね。
p.173 豊かな社会をどう作るのかを論じているところですが、賃金が低く長時間働くのが日本だということで、これを改善し、人々が自由に時間を使えるようにすることで、豊かな社会を目指すべきだとしています。これからは、金よりも時間という考え方です。
p.190 では、終身雇用制がなくなれば、「働かない自由」が得られ、それが新しい生き方を産み出すとしています。そうかもしれません。
本書は、なかなかおもしろい本です。未来の日本を考える上で示唆的な記述がいろいろあります。日本は「人口減少」が避けられません。そういう社会の変化を見極めながら、各個人がどういう方向に努力していけばいいかを考えるきっかけになりそうです。
乙は単行本を読みましたが、今は文庫本が出ているとのことです。
【関連する記事】
- 香川健介(2017.3)『10万円からできる! お金の守り方教えます』二見書房
- 大江英樹、井戸美枝(2017.2)『定年男子 定年女子』日経BP社
- 天達泰章(2013.6)『日本財政が破綻するとき』日本経済新聞出版社
- 安間伸(2015.11)『ホントは教えたくない資産運用のカラクリ 投資と税金編 ..
- 橘玲(2014.9)『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 2015』幻冬舎
- 橘玲(2014.5)『臆病者のための億万長者入門』(文春新書)文藝春秋
- ピーター・D・シフ、アンドリュー・J・シフ(2011.6)『なぜ政府は信頼できな..
- 小幡績(2013.5)『ハイブリッド・バブル』ダイヤモンド社
- 吉本佳生(2013.4)『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)講談社
- 川島博之(2012.11)『データで読み解く中国経済』東洋経済新報社
- 吉本佳生(2011.10)『日本経済の奇妙な常識』(講談社現代新書)講談社
- 野口悠紀雄(2013.1)『金融緩和で日本は破綻する』ダイヤモンド社
- 吉田繁治(2012.10)『マネーの正体』ビジネス社
- 午堂登紀雄(2012.4)『日本脱出』あさ出版
- ウォルター・ブロック(2011.2)『不道徳な経済学』講談社+α文庫
- 内藤忍(2011.4)『こんな時代を生き抜くためのウラ「お金学」講義』大和書房
- 瀬川正仁(2008.8)『老いて男はアジアをめざす』バジリコ
- 増田悦佐(2012.1)『日本と世界を直撃するマネー大動乱』マガジンハウス
- 藤沢数希(2011.10)『日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門..
- きたみりゅうじ(2005.10)『フリーランスを代表して申告と節税について教わっ..