ワンルームマンションの購入前に、本屋さんで買って読みました。
著者は、ワンルームマンションのデベロッパーの人ですから、この本はワンルームマンションのいいことばかりが書いてあります。この本を信じてワンルームマンションの購入に至ってくれれば、著者としても満足ということですね。
さて、投資として考えると、一番重要なのは、第3章「都市型ワンルームマンションに投資するメリット」のところでしょう。ここに書いてあるメリットは、以下のようなことです。(1)ワンルームマンション経営は老後の“年金”になる。(2)ワンルームマンションのローンは生命保険の代わりになる。(3)預貯金よりも高利回りである。(4)ローンを使うと少ない自己資金で投資が始められる。(5)所得税の節税メリットがある。(6)相続税対策になる。(7)自分で(子供用に、SOHO としてなど)使うこともできる。(8)実物資産投資だから手堅い。
以下、この8点を順次検討しましょう。
(1) 確かに、私的年金になるのですが、問題は、今考えている家賃が、そのころまで継続的に入ってくるかということです。pp.50-51 には、30歳の時に購入したマンションで、60歳の時にローンを完済し、年金がもらえると書いてありますが、築30年のマンションで以前と同じような家賃が取れるものでしょうか。これはそうなってみなければわかりません。可能なようにも思いますが、そうでないかもしれません。
(2) 住宅ローンが生命保険になるという発想は、書いてあることは間違っていませんが、そのような目的でローンを借りるわけではないので、おかしな話です。
(3) 今は低金利ですから預貯金よりも高利回りですが、これから金利が上がったら、そうではなくなります。今の非常識な低金利はいつかは終わるでしょう。そのときでもワンルームマンションは優位でしょうか。
それに、ワンルームマンションよりも高利回りが期待できる商品が(不動産投資の場合でも)あるので、そちらのほうがいいのではないかと思います。
(4) ローンを借りると、その分の利子を払わなければなりません。2.6% くらいで借りて、5% の運用利回りと考えれば、元は取れますが、2.6% は変動金利ですから、これから金利が上がれば(そして乙は金利が上がるものと思いますが)、ローンの利率もどんどん上がっていきますから、この点は逆にデメリットになります。
(5) 乙の場合も、不動産所得は赤字で、したがって、給与所得からその分を引いていますから、確かに節税のメリットはあります。しかし、ざっと計算しても、節税分は赤字額の2割程度(給与所得が数百万円以上の場合)ですから大した金額ではありません。単純に考えても「赤字になるために投資する」という考え方は不健全です。
(6) 相続税対策になるメリットもありそうですが、それは投資家が考えるべきことと違うように思います。少なくとも、乙は、今から15年は死なないつもりです。もうすぐ自分が死にそうだと思っている人は、どうぞマンションを買ってください。
(7) 自分や家族が使うということはあると思います。しかし、これは投資とは別の問題です。自分と家族のライフスタイルなどの問題になります。
(8) マンションは実物資産ですから、何があっても残るという安心感はあります。しかし、一方ではこれが負担になる場合もあります。取り壊すのに大変な費用がかかりますから、もしかして地震・火災・戦争などで被害が出たとき、購入価格が 1900 万円のマンションでも、被害額はそれ以上になることがあり得ます。取り壊しからマンション再建まで考えると数千万円かかりそうです。再建しないという手もありますが、その方向で区分所有者の意思がまとまるということはほとんど考えられません。
以上のようなわけで、この本はデベロッパーの側から書いたものですから「ワンルームマンションの明るい未来」をうたっていますが、よく考えてみなければいけません。
乙の感覚では、ワンルームマンションは、長期にわたってわずかながら家賃収入が期待でき、ほんの少しの黒字になりそうだといったところです。ワンルームマンションに投資するくらいなら、もっと他の金融商品に投資するべきです。そのほうがトータルのリターンがよくなります。今の乙には、その自信があります。
というわけで、乙は、ワンルームマンション投資は、あまりおすすめできません。
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