NTT は退職者の企業年金の支給額を減らそうとしています。退職者の側でも9割弱が合意(賛成)しています。しかし、最高裁はそれを認めませんでした。
http://www.asahi.com/business/update/0610/TKY201006100514.html
http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C93819695E2EBE2E1E08DE2EBE2E4E0E2E3E2E2E2E2E2E2E2
最高裁の上告棄却は重い判断だと思います。
問題は NTT に限定されません。各企業とも、退職金や年金の負担にあえいでいるのが現状です。
こういう最高裁の判断が示されると、各企業は倒産の危機に直面するほどの事態にならないと企業年金の減額ができないということになったわけです。
この結果、いよいよ退職者が有利になり(というか、少なくとも不利にはならずに)今働いている人たちは退職者のために働くような形になります。ますます日本社会の窒息感が高まります。
最近は、裁判所の判断が「おかしい」と感じる例が増えたように思います。
裁判所は、その判断が(当面の訴訟の対象になっている問題に限定されずに)日本の未来を決めるほどの影響を持つのだと自覚してほしいものです。日本全体を基準にして、一般論としての判断を先にして、それを個別の案件にあてはめるようにするべきでしょう。
9割弱の人が賛成している制度変更をつぶして、明るい未来があるならいいけれど、決してそんなことはないのです。
今回の最高裁の例についても、乙は残念な気持ちで受けとめました。
参考記事:
http://newsweekjapan.jp/column/ikeda/2010/06/post-188.php
2010年06月18日
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ところで、私は企業年金の制度設計や財務コンサルなどを生業にしているので、専門家の立場から少しコメントさせて頂きたいと思います。
まず、企業年金制度はその設立根拠となる法律があり、そこに給付減額を行える条件(経営の著しい悪化等)が記載されています。そのため、法治国家の日本においては、裁判所は業績好調なNTTに対してこのような判決を出さざるを得ないのだと思います。
裁判所を責めるのであれば、法律改正を訴えるべきと私は思います。
ただし、企業年金は基本的には一括で貰える退職金を利息を付けて分割払いしてあげるというものです(上乗せのある制度もありますが)。言ってみれば、企業が個人の財産を借りている状態であり、その考えに基づくと簡単に年金の減額はできないということになります。銀行が業績好調な企業に対する融資の債権放棄をしないのと同じです。米国や英国ではこの考えに基づき、日本と異なり退職者の給付減額は企業業績が傾こうと一切できないことになっています。倒産した場合のみ可能です。
そのため、NTTが行うべきは受給権の確定していない加入者の給付水準の引き下げのみと私は思っています。他の大手企業もほとんどがこれまでそのような対応をしています。
ご参考になれば幸いです。
なるほど、裁判所ではなく、その判断根拠となる法律の問題ですか。いわれてみれば、確かにそうです。となると、矛先を向けるべきは裁判所ではなく、国会ということになるわけですね。
年金受給者を守るという観点から、このような制度にしたのでしょうが、それでは、長期的観点から見て、世代間の不公平が発生すると思います。
NTT の場合だって、今後の見通しを踏まえて、年金の減額が提案されたはずです。退職した人たちも、それで納得したのでしょう。
制度が硬直的なことは、それ自体が問題を内包しているように思います。