メインタイトルとサブタイトルだけを見ると、日本破綻警告論を開陳する本のようで、伝説のトレーダー藤巻健史氏も、とうとうこういう本を書くようになったかなどと思ってしまいました。
しかし、読んでみると、内容は全然違っていました。これからの日本経済のあり方を論じる書であり、安易な破綻本とはまるで違っています。最後に、日本破綻を避けるための提言まで書いてあり、乙は納得しながら読み進めることができました。
1章は「「計画経済国家・日本」の終焉」というもので、ここが本書の中心です。
今後、バブル崩壊を上回る「市場の反乱」が起こり、トリプル安が起こるだろうと予測しています。
p.67 では、国債の金利が上昇すると金融機関は長期国債を売るという話です。一見すると、反対ではないか(これから金利が上昇するのだから、国債を買った方が儲かる)と思えるのですが、そうではなくて、金利上昇時に固定金利型の資産をたくさん保有していてはいけない(大きな損失をこうむる可能性が高い)ということで売りに回るのだそうです。この結果、国債が売られ、安くなり、つまりは国債の金利がさらに上がることになります。こうして金利の急な上昇(国債の大暴落)が起こることになるわけです。
p.72 では、日本国債は外国人が売りに回るという話です。日本の国債は外国人の保有の割合が低いから外国人の売りは心配無用という人がいますが、それは間違いだというわけです。なぜならば、今は各種デリバティブが発達しており、現物なんて持っていなくても「売り」は十分可能だからです。ヘッジファンドなどは、日本の国債を虎視眈々とねらっているというわけです。
pp.74-75 では、日本の国債の格付けが下がると、国債が売られるという話が出てきます。今は、世界中に債券のインデックス投資をしている機関投資家(年金基金など)があります。これらは、インデックス投資ですから、多く発行している国の債券を多く保有するように運用しています。しかし、ここで日本国債の格付けが下がると、世界の年金基金が今までのように買ってくるとは限らない、むしろ売りに回るのではないかというわけです。確かに、そういうシナリオも考えられます。
というわけで、1章を読むと、日本が財政危機の瀬戸際に立たされていることがわかります。
2章「グローバル化と、低迷する日本」は日本経済の低迷ぶりをグローバル化の遅れで解釈しています。もっともな議論です。
3章「拡大なくして何の分配ありや?」では、平等に貧しい国でいいのかと疑問を投げかけ、経済成長を主張しています。郵政民営化見直し問題やJAL問題も、そのような観点から論じられています。
4章「拡大のための「円安政策」」は、文字通り、日本は円安方向に誘導するべきだという話です。具体的にどうすればいいかまで書いてあり、まったく同感です。
5章「拡大のための「長期戦略」」は、日本のあり方を論じる章です。資本主義の本質が語られます。
6章「市場主義の徹底」は5章の延長で、日本をよくするための処方箋を詳しく語ります。
p.214 では、サブプライムローン問題について、証券化商品の価格が高く評価されてしまったことが原因であるとしています。こういう見方は新鮮でした。
本書は、大変おもしろい本であり、おすすめできます。日本の将来を憂えるかたは目を通しておくといいと思います。
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- 瀬川正仁(2008.8)『老いて男はアジアをめざす』バジリコ
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- 藤沢数希(2011.10)『日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門..
- きたみりゅうじ(2005.10)『フリーランスを代表して申告と節税について教わっ..
確かにこのとおりです。現実にも外人にとっては国債現物より、先物のほうが規格化され人気があるようです。エコノミストも油断している箇所です
乙は、この方面に詳しくないので、断定は避けますが、おっしゃるような簡単なことではないように思っています。
藤巻氏の議論は、国債の値段を下げる段階で儲けよう(儲けることができる)という話であり、その後について語っていません。
その後、国債を持つ日本人が利益を上げることができるならば、外国人の場合も同様のことができるはずで、国債を保有している側が一方的に利益を上げることはできないように思いますが、どうなのでしょうか。
私は藤巻氏の著書を読んでおらず、この記事のみから判断しています。という前提で。
国債現物を売ることができるのは、事前に国債現物を買っていた人だけです。この多くは日本人です。国債現物の空売りができれば別です。
ひとつ前のMoriya, Tomoさんの投稿ですけど、ちょっと気になったので考えてみました。
「現物売り先物買いでアービトラージをして」とありますけど、この取引って「アービトラージ=裁定取引」になっているんですかね。
「現物売り先物買い」とありますけど、既に手許に現物国債を有しているわけですから、単に「手許の現物を売って、先物に乗り換えるだけ」とも読み取れます。
その場合、先物が下落すれば損失が発生するだけです。
当然ながら「日本人が利益を上げるだけ」という結論も保証の限りではありません。
テンポラルな値動きを先物で凌いで、最後に現物の利益を確定させる、という意味かもしれませんけど、それは「アービトラージ」ではなく「ヘッジ」と表現するのが一般的だと思います。
しかし最も不思議なのは「ここまで自信たっぷりに断言できる根拠がよく分からない」ことです(笑)。
リンク先も拝見したのですけど、実名入りで自分の取引を公開されておられるんですよね。
取引内容に自信をお持ちなのは間違いなさそうですけど…勤め先とか大丈夫なのかしら。
駄文、失礼いたしました。
藤巻氏の著書によれば(そして、乙はそれが正しいと思いますが)「国債現物を売ることができるのは、事前に国債現物を買っていた人だけです。」ではありません。国債現物を売ることとまったく同じ効果のある取引を、国債現物を持っていない人が行うことが可能になっています。
まさに、それゆえに、藤巻氏が警告を発しているわけです。
アービトラージについては、Ryu さんのおっしゃるとおりで、「ヘッジ」のほうが適切な表現だと思います。
乙は、Moriya, Tomo さんの言わんとするところをくんでコメントしました。
要は、何を言いたいかということです。
また、仮にそれが国債先物であれば国債現物よりも国債先物の価格が低い分には構いません。先物には納会日があり、先物のロングポジションは現物価格と先物価格の差額がそのまま利益になります。
> 当然ながら「日本人が利益を上げるだけ」という結論も保証の限りではありません。
投資ブログにて投資情報に保証を求めている方がいるとは驚きです(笑)。
> テンポラルな値動きを先物で凌いで、最後に現物の利益を確定させる、という意味かもしれませんけど、それは「アービトラージ」ではなく「ヘッジ」と表現するのが一般的だと思います。
ヘッジをするならば現物を保持したまま先物をショートします。普通はね。
わざわざ返信頂き、また諸々ご教授頂きありがとうございます。
最初の投稿にかなり衝撃を受け、気が付いたら投稿してました(笑)。
銀行をはじめとするわが国の機関投資家において国債の残高が尋常でなく積み上がっており、その暴落が懸念される今日この頃ですので、Moriya, Tomoさんのお説である「日本人が利益を上げるだけ」を聞いたら、喜ぶ人がわんさか出てくることでしょう。
こんな小さなところ(乙さんスミマセン)ではなく、もっと表に出てご自身の主張を述べてみてはいかがでしょうか。
仮にも「伝説のディーラー」を名乗られる方を論破できれば、世間の注目を少なからず集めると思います。
既に実名も出されていることですし(笑)。
乙さんが今回紹介された本を一読されているのがいいかもしれませんね。
駄文、失礼いたしました。
> 喜ぶ人がわんさか出てくることでしょう。
出てこないですよ。私は国債現物をもつ機関投資家が全体的に利益を得るとは書いていません。一部の機動的な機関投資家です。やるのは自己勘定のトレードぐらいでしょう。
外国人が売り崩そうとしても、それを逆に利用する日本の機関投資家がいそうだというだけです。私の焦点は外国人が売り崩しで利益を上げられるかどうかであって、大半の日本の機関投資家は国債現物価格の下落による評価損はありますよ。それは私の示したシナリオでは国債現物価格は下がりますよ。日本人が国債現物を売るんですから。
要は売りの場面になれば、いろいろな方法で誰もが売りは可能であると思います。
乙さんへの返信内容を見ていて、問題の所在がちょっとずつ分かってきました。
まず先物と現物の規模感に根本的な誤解があるようです。
『藤巻氏の言う国債のデリバティブの市場がどれくらい影響力があるのかです。市場が小さければ現物価格に影響は与えられません。』
とありますけど、実際には現物より先物の方がインパクトが大きいんですよ(笑)。
犬に例えると国債の現物はしっぽで、債券先物が犬本体と考えればいいと思います。
犬がしっぽを振るのであって、しっぽが犬を振っていたらおかしいですよね。
債券先物=デリバティブが主導で、それに現物価格が収斂する、というのが一般的な市場参加者の理解だと思います。
という訳で、さかのぼって上記の引用部分が間違っているんですね。
というか、そんなことも知らずに債券市場を語ってはダメですよ(笑)。
その後にもおかしな記述があるようですが、この続きを書くとメチャクチャ長くなりそうです…どうしましょうか?
駄文、失礼いたしました。
お名前はつとに拝見させて頂いております。
『あまり、アービだヘッジだと議論されないほうが良いと思います。』
もっと考えるべき問題が他にあることは承知していたのですが、裁定機会があると言われると自分を抑えられないタチでして(笑)…ご迷惑をお掛けして申し訳ないです。
『そもそも、質や安全資産としての国債への逃避、その質が崩れ、逃避が始まったらどうなるかと言うことですので、多分売り一色でしょうね。』
とはいえ、現実の債券先物市場はここ数日、暴落どころか急騰しておりますが…。
『要は売りの場面になれば、いろいろな方法で誰もが売りは可能であると思います。』
仰る通りだと思います。想定されているシナリオだと現物保有者にアドバンテージはほぼ無いと考えます。
駄文、失礼いたしました。
TVでも同じ流れを取っています。
確かにニュースでも海外投資家に国債を買って欲しいとアプローチをしていますが、実際は先物などですでに参加しているのが実態です。
私見ですが派生商品は所詮派生商品で、現物にくっ付いて周るだけと思っています
> とありますけど、実際には現物より先物の方がインパクトが大きいんですよ(笑)。
藤巻氏のいうデリバティブ市場とは国債先物なのですか?実際にそうなのですか?エビデンスはもちろんありますよね?そこがよく判らない。まさかデリバティブ=先物とは考えていませんよね。
> 債券先物=デリバティブが主導で、それに現物価格が収斂する、というのが一般的な市場参加者の理解だと思います。
その通りですよ。通常時にはね。
Ryuさんは債権市場に詳しそうですけど、市場介入についてどう考えますか?突然の規制も含めて。
最初の投稿から考えるとずいぶん話が変わってきているとは思いますけど、それをあまり追いかけるのもアレですし、本題からズレてきているとのお叱りも受けましたので、以下は自粛いたします。
おいしい話はなかなか無い、ということですね(笑)。
僕の中で基本的な情報を再確認できたこともあり、その機会を与えてくださったMoriya,Tomoさんには感謝しています。
僕あてにいくつかご質問も受けておりますけど、乙さんがご紹介された本を読んで頂ければ、答えもしくはヒントが得られると思います。
あと知り合いで金融機関にお勤めの方がおられたら、同じ質問をぶつけてみるのがいいのではないでしょうか。
ひとつも前の投稿に書いた「メチャクチャ」に長い投稿は実は草稿を用意してあったのですけど、ボツにいたします(笑)。
駄文、失礼いたしました。
もし、何処かの馬鹿ヘッジファンドが売りを仕掛けてきたら、日銀に買取らせれば良いのです。そうすると、現物とデリバティブの価格差が開きますから、現物売り、デリバティブ買いの裁定取引が起き、ショートをポジっている馬鹿ファンドは破産確定です。
そもそもそんなに簡単に売り崩せるならとっくに売り崩されているでしょうし、世界最大の対外純債権国に売りを仕掛ける時点で頭が悪いことが確定です。良く日本国債の外国人保有率が低いとか良いますが、日本が世界最大の対外純債権国と言うことは、世界一の大金持ちなのです。
240兆円の資産家に向かって
「お前の借金が無いのはお前の経済力に信用が無いからだ。」
と言うようなものです。金を借りていないのは十分すぎる金が有って借りる必要が無いだけなのです。
「銀行、カネ余り深刻 使い道困り国債へ 損失の可能性も」http://www.asahi.com/business/topics/economy/TKY201006080548.html
「対外純資産、過去最大266兆円 日本19年連続世界一」「http://www.asahi.com/business/update/0525/TKY201005250094.html」
マクロ経済を家計に例えるのは間違っているのですが、あえて例えると、
奥さん(政府)が旦那さん(民間)から金をかりて生活しているのです。そして、重要なポイントは奥さんが買い物をする相手は全て旦那さんさんなのです。
その結果、奥さんが旦那さんからかりたお金は増えるのですが、それがそのまま旦那さんの収入になるので、日本一家としては金持ちのままなのです。
なぜなら、旦那さんは海外という他の家に商品を売って貿易黒字という収入を稼ぎ、さらに奥さんが使い切れないお金を海外に貸して資産運用をしているのですから。=経常黒字。
日本経済の問題点は財政赤字ではなく、深刻な【需要不足】なのです。だからデフレになるし、金が余って国債に流れ低金利が続くのです。そして、政府が国債を発行する事で銀行の金庫に眠っているお金をわざわざ引っ張り出してきて国民に渡しているのです。だから需要不足さえ解消すれば財政赤字の問題など自ずと解消してしまうのです。
当方、裁定マニア?でございます(笑)。
お説には「もし、何処かの馬鹿ヘッジファンドが売りを仕掛けてきたら、日銀に買取らせれば良いのです。」とありますし、別のスレには「ハイパーインフレなど杞憂に過ぎない」と書かれておられますけど、これは日銀法で国債の直接引き受けを禁止した経緯をご存知の上で書かれておられるようですね。
確かに日銀が受けてくれれば裁定機会が生じる可能性はあるとは思いますけど…でも日銀がこれを非常に嫌がっていることも当然承知されておられますよね。
ということで国会決議で突破することになりますが、この場合、外資は確実に勝負してくると思われます。
というか、Leopardさんは外資が相当お嫌いみたいですね(笑)。
「日本経済の問題点は財政赤字ではなく、深刻な【需要不足】なのです。」
最近この立場に立った主張を複数見掛けるのですけど、底本か何かあるのでしょうか。
駄文、失礼いたしました。
>でも日銀がこれを非常に嫌がっていることも当然承知されておられますよね。
そうですね。悪名高き!?日銀券ルールとかありますからね。まあ、そんなこと心配しなくても邦銀が国債を売って手に入れた日本円の運用先が無いのですから、そして預金は銀行にとって負債なのですから、これを何処かで運用しないと逆ザヤになります。株も駄目、企業融資も駄目となれば結局国債しかないのです。つまり、馬鹿ファンドがどうあがこうが、日本国内に資金需要が無い以上、現物売りが大量に出ることはありえないのです。おそらく日銀がでるまでも無く、邦銀が先物買いなりの裁定取引を行ってぼろ儲けでしょう。
だから、それを知っているファンドは仕掛けないし、見方を変えると、こういう旨い話に引っ掛かる鴨を煽るポジショントークにも見えますね。何処かの馬鹿共が仕掛けたら、おこぼれを貰うぞと。
>というか、Leopardさんは外資が相当お嫌いみたいですね(笑)。
別に嫌いと言うわけではありませんが、政府がコレだけ巨額な債務を抱えても、19年連続対外純資産世界一、と言うことは、マクロ経済的に【貯蓄>投資】となっているのです。要するに日本国内でリスクに見合う投資先には全て投資されて、それでもなお国内に金が余っているのです。その状態でわざわざ海外から金を借りる必要など無いのです。
>最近この立場に立った主張を複数見掛けるのですけど、底本か何かあるのでしょうか。
マクロ経済学とまでいかなくても、そういう考え方を勉強すると見えてくるのです。ケインズとかクルーグマン博士とかの考え方ですで。若干主張はずれますが、バーナンキFRB議長とかも。まあ、一番影響を受けたのはリチャード・クー先生ですが。