一読して、竹中流の考え方に染まるような心地よさを感じました。日本が直面するさまざまな経済上の問題について明確に論じます。単なる評論家とは違った、かつて政権中枢にいた人のことばだけに、具体性があると思いました。
第1章「逆戻りした日本――小泉語の日本経済――」では、今の日本経済について、ひとことでいえば「改革を止めたからダメになった」という見方を展開しています。乙は、かなり納得しながら読みました。
第2章「ずさんな政策論議――「100年に一度」という言い訳――」では、今、あちこちから聞こえてくる政策論議を切り捨てます。「植物学者が優れた庭師になれる保証はない」ということで、政策を担当する人と、評論家を峻別しています。
p.89 では、「政策論に関しては民間には知恵がほとんどありません。」と述べています。乙としては、これはちょっといただけなかったですねえ。竹中氏のおごりではないでしょうか。竹中氏が大臣や参議院議員として政治に関わるようになる前は「民間人」だったのではないでしょうか。そのころの竹中氏には知恵がなかったのでしょうか。
第3章「誰が日本の前進を止めたのか」が(乙としては)一番おもしろいところでした。日本のさまざまな「抵抗勢力」について述べています。
p.110 では、官僚が経済財政諮問会議を利用して主導権を取ろうとしていることを批判しています。役人の書いたペーパーが経済財政諮問会議に出てくるようになってくると、そこに総理大臣がいることで、いわば総理大臣も認めたということになってしまうと述べています。なるほど、官僚の狡猾なやり方がわかる書き方です。
p.138 からは、「増殖するワイドショー・ポリティクス」という題で、竹中氏はテレビのワイドショーなどを批判しています。野球の評論家は元プロ野球選手であり、そのようなプロだからこそ語れることがあるのに、政策の評論をしている人はみんなアマチュアであり、議論のレベルが低いとしています。確かにそうかもしれません。しかし、乙はちょっと違う感想を持ちました。今の政治のしくみを考えれば、国民が選挙で議員を選ぶようになっており、いわば一番アマチュアらしい人が一番強い実権を握っているともいえるわけです。つまり、プロはプロとして存在理由はあるけれども、そういうプロを選ぶのがアマである以上、アマにわかりやすい話をしなければならないと思うのです。「プロでなければわからない」ということをいっていると、正しい民主主義は根付かないでしょう。手間がかかっても、国民に懇切丁寧に説明し、納得してもらえるようにしなければなりません。これを省くと、「俺についてこい」的な、言い換えると独裁的な政治家が登場するでしょう。乙は、こちらのほうがきらいです。手間がかかっても、みんなで議論していきたいと思います。
第4章「それでも日本経済は強くできる――再生への四つの提言――」では、実際には五つの提案をしています。法人税減税、ハブ空港・オープンスカイ、東京大学民営化、農地法の改正、インフレ目標の導入です。だいぶ意外な気がします。論拠など詳しくは本書を読んでいただきたいと思います。本書を読むともっともな話に聞こえますが、後から考えてみると、この五つというのは、ずいぶん独創的な話のように思えてきました。日本経済を強くするために、この5点が挙げられるのですからねえ。
とにかく、行うべきことがたくさんあるというのはその通りです。
第5章「民主党政権にチャンスはあるか」は、今回の参議院選挙の結果からもうかがえるでしょう。
全体としておもしろく読めました。
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