http://www.nikkei.com/news/category/article/g=96958A9C93819481E3E4E2E19D8DE3E4E2E5E0E2E3E29C9CEAE2E2E2;at=ALL
会社勤めをしている人が定年になって無職状態になっても、年金の支給は65歳からですから、その間、「無職無年金」という状態になります。これを防ぐために、企業に65歳までの雇用を義務づけようという話です。
話としては、わからなくもないですが、今一般的な60歳定年制を基準にした場合、定年から65歳までの給料をどのような金額に設定するといいのでしょうか。これは、制度の設計上、きわめて大きな問題です。この点を抜きにして議論しても無意味です。記事では、この点がまったく触れられていなかったので、乙は不満に思いました。(新聞記事というのは、どうしてこんなに掘り下げ不足なのだろうというのが感想です。)
年功序列の延長で、定年から65歳までの給与水準を定年時程度とすれば、企業は人件費の増大に苦しむことになります。その負担に耐えられない企業は退場せざるを得ません。倒産する企業も出てくるだろうと思います。
一方、定年時に比べて給料が大幅減となれば、企業倒産のような最悪のケースは避けられるでしょうが、今度は、高年層が若年層の雇用を奪うことになりそうです。高齢者の側はどう反応するでしょうか。低賃金でいいというでしょうか。同じ企業で低賃金で働くよりは、他に移りたいと思うのでしょうか。企業側としても、優秀な労働者が低賃金で働いてくれるならばありがたいでしょうが、長期的に見た場合、本当にプラスの効果があるとは限りません。結局、人は無制限に働き続けることは不可能ですので、いつかは仕事を辞めるときがくるものです。
高齢者が働くことに関して、乙は以前ブログで三つの記事を読みました。
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20100214
http://plaza.rakuten.co.jp/outpostofnanasi/diary/201002150000/
http://kabu-10.at.webry.info/201002/article_10.html
乙は、それらの基になった「ガイアの夜明け」も見ましたので、興味深くそれらの記事を読みました。
65歳になって、年金がもらえるようになっても、働きたいという需要はあるのです。
Chikirin さんは「若者、アウト!」と叫んでいます。本当にそうなるかもしれません。
少なくとも、若年層と高年層の世代間対立はいっそう激しさを増すように思われます。
2010.12.10 追記
この話に関連することを
http://otsu.seesaa.net/article/172666435.html
に書きました。
よろしければ御参照ください。
【関連する記事】
しかし国にお金は無いので、
企業さん、宜しく!という意図も、意義も分かりますが、
今の雇用環境でそれが良いことかどうか・・・
いっそのこと定年制度自体を廃止して、
年齢で区別をせずに、
同じ仕事であれば同じ給料としてしまえば、
若者の仕事を高年齢層が奪うとは言えず、
あくまで競争の結果だ!とできるのでしょうけど、
それはそれで年功序列制の良い点を失うことになり、
難しいのでしょうねえ・・・
定年制度は年功序列・終身雇用と一体化しています。年齢による差別をしないということで、定年制度を廃止するということは、年功序列・終身雇用制度を廃止するということです。
理屈としてはあり得ますが、そんなことをしたら、日本社会は相当にきしむでしょうねえ。
>理屈としてはあり得ますが、そんなことをしたら、日本社会は相当にきしむでしょうねえ。
年功序列・長期雇用・定年制は、いずれも経済が成長期にある社会において親和性のある制度です。
現在、我が国が成長期を終え、成熟期に突入したのであれば、これらの制度は制度として疲労する過程にあるはずです。
仮に日本経済が成熟期にあるにもかかわらずこれらの制度を温存しやり過ごすような期間が長ければ長いほど、国全体としては現在のユーロ圏の南欧諸国のような極めて厳しい緊縮財政を敷く可能性が高まるはずですし、それに伴いソブリン・リスクも高まるでしょうから、制御不能のインフレになる可能性がないではないでしょう。
いずれにしても、これらの制度を廃止することは労働市場の流動性を高める手段として有力である以上、短期的には日本社会がきしむでしょうが、中長期的には極めて好ましいことではないでしょうか。
講学上(理屈)からも実務的にも労働市場の開放は、今そこになる危機に対応する最善の方策だと思います。
なお、それを拒んでいるのは、そうなると不利益を被る輩であることはいわずもがなです。
年功序列・長期雇用・定年制は、日本社会に根付いていますから、理屈としてそれを変えるべきだとしても、実際はなかなかそうはならないと予想します。
中でも抵抗勢力は中高年社員(乙もその一人ですが)です。若いときに安い月給でこき使われ、中高年になってやっとその分を取り戻しつつあるときに、今度は、若者と同一賃金だとなったら、たまりません。
そして、何といっても、この層は人口が多く、選挙での投票率が高いのですから、日本では圧倒的な力を持っているわけです。
乙は、日本が次第に年功序列などをやめる方向に変化していくだろうと予想していますが、一方では、年功序列・長期雇用・定年制はかなりの期間に渡って維持されるだろうと思います。ゆっくりした変化になるだろうということです。
もっとも、ゆっくりした変化で「間に合う」のか、その前に、国家破綻などの荒波に襲われるのかはわかりませんが……。
年功序列や終身雇用そのものは必ずしも悪いものではないように思います。
例えば何かとモノ入りの50代を賃金のピークとして
それ以降は段階的に賃金を引き下げ、その代わりに労働時間も短縮し
社会全体として60代の育児参加を促進する、
といった事も可能なのではないでしょうか。
年功序列・終身雇用という制度自体が悪いわけではないというのはその通りです。
しかし、少子高齢化が進む社会においては、かなり望ましくない制度だともいえます。
そこで、乙は、そうでない方向に徐々に切り替わって行かざるを得ないのではないかと考えています。
50代を賃金のピークにするというのもおもしろい話ですが、今の制度の中では、働く側が「労働条件の不利益変更だ」と主張すると、それが通るように思います。そして、労働組合の中で、そう主張する中高年層が多いわけですから、労働組合としても、そう主張することになるのではないでしょうか。
社会全体として○○のほうが望ましいということがあっても、個々の会社や労働組合や個人の判断は必ずしもそうは考えません。このあたりがむずかしい(判断に困る)のですね。