タイトルが内容を物語っています。
今の日本の雇用情勢に関して、さまざまなウソがはびこっているということで、データで反論しています。
たとえば、終身雇用は崩壊したといわれていますが、そんなことはなく、崩壊していないということです。
転職が一般化したともいわれていますが、ちっとも一般化していないとのことです。
派遣社員の増加は正社員のリプレイスが主因ではないとか、正社員は減っていないとか、けっこう目からウロコの主張が並びます。しかも、データで裏付けられていますから、一般に流布している俗説の方が間違いであると思われます。
p.119 では、正社員が非正規社員になったわけではなく、かつて零細商工の従業員だった人が非正規なったと書いてあります。単なる統計を見るのでなく、その裏側を解明していると思います。
p.167 では、日本の雇用に関して、正社員のクビを切れないから、クビを切らなくて済むしくみを作ったとあり、現在のしくみをひとことでまとめています。これは、はたと膝を打つ感覚でした。
また、p.196 では、為替レートと関連付けて日本の人件費を論じていますが、まさに為替レートの大きな変動が日本のあり方を変えたのだということがわかります。日本はいまさら円安の世界には戻れないでしょう。だとすれば、今後どうするべきかも自ずと方向性がはっきりしてくると思われます。
本書は、全体としておもしろい本だと思いますが、本書中の決定的な間違いが気になりました。
第1は、p.125 の図表12−1で「各国の失業率推移」を示していますが、縦軸が%で示されているのですが、軒並み数十%になっています。ここは軸の目盛りが違っています。
第2に、p.137 ですが、「調査労働者(年)」という欄があります。数値は、6桁くらいのものがずらりと並んでいます。「年」が単位であるはずがありません。また、勤続年数(年)のところも、2桁から4桁くらいの数値が並んでいます。こちらも「年」が単位であるはずがありません。
データに基づいて論じていく本であるだけに、図表の間違いは致命的です。
とはいえ、全体の主張は納得できるように思います。テレビやマスコミに登場するお手軽コメンテーターは、海老原氏の態度を見習うべきでしょう。
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本当に目からウロコの事実が多かったです。
マスコミなどが創った印象ではなく、
事実に基づいて考える姿勢を持ちたいものです。