海外移住に必要な税金関係の知識をまとめて解説した本です。
非常に興味深く読みました。
各国の税制は大きく異なっています。それを知らずに移住先を決めるのは無謀です。特に、高額資産を保有している人はこの点をシビアに考える必要があります。
第1章「日本の国際所得税」では、日本人が海外移住した後、日本でかかってくる所得税をどのように処理するかを解説しています。日本の資産を全部売り払って海外に移住したとしても、なお、日本で所得がある場合もあります。たとえば、年金です。したがって、たぶん、税金の面では、一生、日本からは離れられないと思います。
海外移住した場合でも、日本に不動産を持ち、賃貸に出していたり、株を持っていたり、預金があって利息を受け取ったりする人も多いでしょう。それらはすべて税金がかかってきます。ぜひ、これらの知識を身につけておく必要があります。
第2章「日本の国際相続税」も興味深いものです。海外移住しても、移住先での交通事故などで突然死亡することがあります。そのとき、相続が発生しますが、相続人が外国に住んでいる例もあるし、財産がいろいろな国にあるとなると、それらをどう扱ったらいいか、問題が生じます。日本の居住者の定義などから始まって、全体にくわしい記述がなされています。
乙は知らなかったのですが、たとえば、p.77 ではこんな話があります。日本人甲が10年前からA国に移住していて、その配偶者もA国に10年在住しているとします。その場合に、甲が配偶者に日本の有価証券を贈与すると、それは日本の贈与税の対象になるとのことです。受贈者が日本に住んでいる場合、勤務でB国に在住4年の場合、それにもちろんこの配偶者のようにA国に住んでいる場合を分けて、甲の贈与財産をA国の不動産、A国の有価証券、B国の預金、B国の不動産などに分けて、それぞれが日本の贈与税の対象になるか否かを述べています。いやはや、むずかしいものです。
第3章「米国」第4章「カナダ」第5章「オーストラリア」第6章「ニュージーランド」第7章「スイス(チューリッヒ州)」第8章「ドバイ」第9章「シンガポール」第10章「マレーシア」第11章「タイ」第12章「ベトナム」第13章「香港」は、それぞれの国ごとの税制を記述しています。居住者・非居住者の定義から始まって、日本の各種収入、当該国での各種収入をどう扱うべきか、贈与税や相続税がどうなっているか、二重課税の調整法など、興味深い内容です。各章がほぼ同じ構成で書かれているので、移住先を比較検討する際にも便利です。
乙は、アメリカでの相続について考えたことがありましたが、
2010.8.31 http://otsu.seesaa.net/article/161081438.html
本書で、かなり詳しく知ることができました。
たとえば、p.111 では、遺産税について、遺産が100万ドルまでは統一税額控除でほぼ無税にできるようです。これはアメリカに住んでいる人の場合で、アメリカに居住していない人の場合は異なります。けっこうな額です。まあ、アメリカにはあまり移住したいと思わないのですが、こんな知識を知っているのと知らないのでは大違いです。
なお、乙が上記のブログ記事で問題にしたのは、日本にいながらアメリカの株を買ったりするとアメリカに財産がある形になるということで、ここでの問題とは別です。
国ごとに税制には大きな違いがあるものです。本書でそれを一覧表のように知ることができた点に意味がありました。
国ごとのページ数が大きく異なります。
米国 39p. カナダ 19p. オーストラリア 15p. ニュージーランド 25p. スイス 19p. ドバイ 11p. シンガポール 25p. マレーシア 17p. タイ 19p. ベトナム 31p. 香港 8p. です。米国とベトナムがページ数が比較的大きく、香港は薄くなっています。これは、各国の税制の複雑さを表しています。米国は税制が複雑です。香港は、贈与税・相続税がないので、両方合わせて1行しか記述がありません。香港では銀行の利子も非課税です。記述は簡単でも十分ということになるわけです。
というわけで、海外移住を考える上では、本書は大変有効な指南書になるでしょう。
乙は、本書を図書館で借りて読んだのですが、自分で買って読んでもいいと思いました。もっとも、今買っても、移住を実現するまでは15年くらいかかりますから、読んだ知識が陳腐化しそうです。具体的に移住を考える段になってから、改めて買うのがよさそうだと思いました。もしかして、そのころには改訂版が出ているかもしれませんし……。
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