構成はシンプルで、全体が3章に分かれています。
第1章 米国と台湾の遺産税
第2章 韓国の相続税
第3章 日本の相続税
第1章の記述の中心は米国で、65ページもあるのに対し、台湾は14ページしかありません。
それぞれの国(地域)の相続に関わる税について、Q&A 形式でまとめた形になっています。
第3章は、一般的な知識のように思いました。類書も多いです。
本書の特色は、三つの国と地域の相続税について、くわしくまとめて記述したところにあります。
三宅茂久(2008.6)『Q&A海外移住タックスガイド』財経詳報社
2010.9.26 http://otsu.seesaa.net/article/163771032.html
で取り上げていた地域とは重ならないようになっているので、両者を併せて読むといいと思います。
乙の場合、Interactive Brokers を通じて、アメリカに資産の一部をおいている形になるので、もしも乙が死ねば国際相続の問題が発生します。本書を読んで、そういうことに備える必要があると思いました。いや、実は、海外での投資を始める前にこういう本を読んでおくべきでした。実際は、1年半前に出版されたものですので、乙の海外投資の開始には間に合わなかったのですが。
以下、主として米国に関する記述で重要なことをピックアップしてみましょう。
p.24 では、米国に joint tenancy(合有制)があることを述べています。これについては、p.65 でも述べられます。「共有」とはずいぶん違います。合有するということは、自分が死んだらもう一人に権利を無償で移転するという契約なのです。
もちろん、合有によって、相続税(遺産税)を免れることはできません。しかし、合有制があるおかげで、遺産に関して裁判所が検認するまで何もできないというような不便さはなくなります。このあたりは p.70 に記載があります。
乙がアメリカにある財産を子供との合有にすると、その財産の取得費用を乙が全部出したことは明らかですから、この財産全部が課税対象になるわけです。ま、これはしかたがありません。
p.27 では、親が財産を海外に移し、子供を海外に居住させて日本に住所がないようにした場合でも、子供が日本国籍を持っているならば、日本で課税されるとのことです。平成15年からこういう変更がなされたという話です。もっとも、子供が日本に帰らない状態でどうやって子供に課税するのか、よくわかりませんが、……。
p.37 では、米国の遺産税について、米国に住んでいない外国人の場合は、生涯控除額が6万ドルとのことです。つまり、米国に6万ドルを超える財産を持っていると、死んだ時に遺産税が取られます。乙もすでに引っかかる状態です。米国の遺産額の税額は、日本の相続税なみかと思いますが、日本での二重課税を避けることを考えると、けっこう手続きがめんどうなように思います。
p.53 非居住外国人の遺産税の計算例が示されています。非居住外国人は、全世界の総遺産額を算出する必要があります。なぜなら、どの国にいくらの遺産があるかによって、葬儀費用・管理費用を按分して控除するためですが、これまたけっこうめんどうな処理です。子供にやってもらえるでしょうか。
本書の記述はくわしく、かつ具体的です。有用な本だと思います。海外投資を始める前に、こんな知識を持っていればよかったと思いました。
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