今の日本は財政危機ではないという本で、びっくりします。財政危機だと主張するのは、政府(財務省)と新聞であり、それは、増税を国民に納得してもらうためのキャンペーンだというわけです。むしろ、今の日本は政策危機だということです。政策を間違えて緊縮財政を6年も継続しているから、税収が激減し、政府債務が増加してしまったということです。
菊池氏によると、財政危機に関していえば、「粗債務」<負債>で見るのでなく、「純債務」(粗債務から金融資産を引き算したもの)で見るべきで、そうすると、日本は健全であり、財政危機にはほど遠いということです。日本の場合、諸外国と違って、政府が非常に大きな金融資産を保有しており、したがって純債務で見れば GDP 比率が他の先進国からかけ離れて大きいわけではないということになります。
では、その金融資産とは何か。社会補償基金 254 兆円、内外投融資 136 兆円、外貨準備 90 兆円の合計 480 兆円です。粗債務 795 兆円が大きくても、純債務は 795-480=315 兆円しかなく、GDP 503 兆円と比べれば、大した金額ではないわけです。したがって、まだまだ国債が発行できるともいえます。
乙が、大きな本屋さんにいったとき、書棚に国家破綻本があふれ、今にも日本が破産しそうだと思われました。しかし、一方ではこういう本があるというのはとてもおもしろいです。
実際のところ、財政危機だとする考え方と財政危機ではないとする考え方のどちらが正しいのか、乙にはわかりません。菊池氏のいうように、今が財政危機ではないとしても、今までのやり方で、国債の大量発行を続けていけば、純債務でも GDP 比がどんどん大きくなっていくように思います。日本が、積極財政を進めて、名目 GDP をさらに大きくするようにしても、借金は借金でさらに大きくなりそうです。プライマリバランスさえ達成できない状況の日本が、今後10年程度で国債発行が減少するなんてことがあるのでしょうか。
菊池氏によれば、減税することで、結果的に税収が増えるというようなシナリオもあるとのことで、なかなか財政というのは奥が深いものだと思いました。「赤字だから増税」という単純な発想だけでは不十分なんですね。
こういう本を読むと、(現実は変わらないのに)なんだか気分が楽になるような気がします。少なくとも、数年以内に国家破産などということはなさそうに思えてきます。精神衛生上、大変いいです。
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