「これから10年で富の所有者は激変する」という副題が付いています。
第1章では、年金の話が出てきて、「おや、買う本を間違えたか」などと思ってしまいます。実は、長期投資で自分の資産を作り上げれば、年金なんてどうということのない問題にすぎないという話の前触れなんですが。乙が読んだときは本当に意外な感じがしました。
第2章で、個人や家計がいまの生活水準を守っていくのがむずかしいという話になります。
第3章では、運用に踏み切った人から浮上していくということで、土地持ちや天下りを繰り返す高級官僚などの従来型の金持ちは没落し、株式投資などができる人がこれからの金持ち像だということが説かれます。
第4章がこの本のメインで、どのように資産を運用するのか、そのコツが書いてあります。ここは澤上流の弁舌がたっぷりと聞けます。
第5章では、現在、日本企業が復活しつつあることが述べられます。
第6章では、政府の景気対策としての公共工事などがいかにくだらないかを述べ、そんなことは、個人投資家が自分達の手で十分できることなのだということが書いてあります。確かに、日本には膨大な個人資産(1400兆円?)があるわけですから、それをうまく使えば、政府に収められる税収40兆円なんてどうでもいい金額の数字にすぎません。要はお金の使い方なのです。では、どのように? 何と、単に長期投資を心がけるだけです。詳しくは本書を読んでもらうしかありませんが、壮大な話です。日本に長期投資家がたくさんいたら、澤上氏のいうように、不良債権の処理なども民間でできてしまったというのもうなずけます。
というわけで、この本は、第4章のようにして長期投資の心がけを述べることがメインなのですが、第6章のように、長期投資がもたらす日本経済の改善にまで話が及ぶというところがおもしろいです。本書は、単なる投資関連本というよりは、澤上流の「いかに生きるべきか」が語られる有益な本です。読み終わった読後感は実にさわやかです。小手先のテクニックで投資を考えるのでなく、自分の生き方を基準に投資を考えるという態度がすばらしいんですね。
長期投資を目指す人は、ぜひ一読しておくといいでしょう。
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