NIKKEI NET BIZ+PLUS「経済学で考える」の連載を中心に、一部「エコノミスト」の記事なども入れてまとめた本です。元の記事は2004年から2008年くらいのものが多いようです。その意味で、内容がやや古い印象があります。
本書は、全6章に区分されていますが、さらに62節に細分されています。それぞれの節のタイトルが「〜か」という問いかけになっており、内容をよく表しています。その問いかけに答えているのがその節の記述だということです。
乙がおもしろいと思ったことをいくつか取り出しておきましょう。
pp.81-83 くらいの記述ですが、夫の所得が高いほど妻の有職率は低い(ダグラス・有沢の法則)という傾向が、30歳未満では逆になることから、長期的には夫の所得が高くても妻の有業率は低下しない(あるは上がる)と予想しています。そのことから、高所得カップルの子供を(保育園という形で)税金で面倒を見ることが疑問だとし、所得の高い家計からは実際にかかるコストを保育料として徴収し、その資金で保育所を増設すべきだと主張しています。実際の保育料がいくらになるかで話は変わってきますが、実際にかかるコストの8割が税金だということは、単純にいえば保育料が5倍になるということです。今は、保育料が5万円くらいでしょうか。とすると、原田説では保育料が25万円になります。1年間で300万円です。高所得カップルは払えるでしょうが、若い人で高所得というケースは少ないでしょうから、あまり現実的な案ではないかもしれません。
なお、p.83 で保育料は所得を得るための必要経費として所得から控除することを提案しています。アメリカではそうなっているそうなので、日本でも同様にしてもらいたいものです。
pp.118-120 で、子育ての機会費用が高いことを述べています。p.120 の図3は、
http://koutou-yumin.seesaa.net/article/166428656.html
にも引用されています。働く女性が仕事を辞めて、出産・育児のあとにパートタイマーになるとすると、2億3719万円もの所得が失われるというわけです。こんなにも子育てコストが高いのでは、児童手当(現在は子ども手当ですが)などをもらってもまったく割に合わないということになります。
なお、このような機会費用を考慮すると、保育園の保育料が1ヵ月25万円になっても安いものだという議論が成り立ちます。(現状と大きく異なるので、心理的には受け入れにくいと思いますが。)
著者は、さらに、日本的雇用システムが崩れつつあることから、年齢による賃金カーブがフラットになっていくので、子供のコストが低下していくと述べています。そして、日本の女性は、子育て後でも、パートタイマーよりもずっと高い賃金カーブの仕事を見出すことができると予測しています。ここのところは、乙には違和感がありました。これからの日本は賃金カーブがフラットになるだけでなく、賃金レベルが下がっていく(つまり、全員がパートタイマーのようになる)のではないかと思います。今の若者の就職難や、非正規雇用の増加は、こんな日本の将来を暗示させます。とすると、子育ての機会費用が低下するのはその通りですが、所得全体として減少傾向になるのではないでしょうか。つまり、少子化は簡単には解決しないことになります。
p.184 では、次のようにあります。
日本で生産性を高めるという議論をするとき、既存の産業の生産性をいかに高めるかという議論になることが多い。しかし、アメリカの生産性の高さは、生産性の低い産業を輸入に置き換えることによってもたらされている面が大きい。
この話は目からウロコでした。この考え方をすると、日本のあり方は大きく姿を変えることになりそうです。
他にもおもしろいところが何ヵ所もあります。本書は、事実を重視して、図表を多用し、そこから話を進めていくスタイルなので、わかりやすいと思いました。
あえて欠点らしきものをいうと、あちこちのグラフが Excel で書かれているようで、モノクロでは線の区別がむずかしいということがあります。もう少し、相互に区別しやすい線などを使うとか、別の工夫をすればよかったと思いました。
関連記事:
http://koutou-yumin.seesaa.net/article/166397774.html
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