本書は、日本の国家破綻は確実だということで、ではどうしたらいいかを説く本です。
それはそうなのですが、まず最初に、この本が前提にしていることを明確に書いておかなければ、買う必要のない人までがこの本を買ってしまうでしょう。
資産が5億円以上(!!)ある人だけがこの本を読む価値があります。
p.167 には、資産運用に使うアメリカ型プライベート・バンクと資産保全に使うスイス型プライベート・バンクがあり、それぞれ2対8の割合で資産を分散するべきだということが書いてあります。そして、p.168 には、プライベート・バンクに口座を開く場合、最低受入額の目安は 100 万米ドル(約1億円)だと書いてあります。単純に考えれば、2対8に分散して、一方が1億円なんですから、全体で5億円以上ある人でないと、この本に書いてあることを実行できないのです。
似たような話はあちこちに出てきます。p.169 では、納得のいくポートフォリオを組もうと思ったら2〜3億円ないと、実際にはできないと書いてあります。p.171 では、まともな(つまりはスイス型の)プライベート・バンクは、100万、200万米ドル、あるいは3億円以上ないと口座が開けないということが書いてあります。
乙の資産はこんなにありませんから、この本で勧めている資産防衛法も何も無意味です。
170ページ近くも読んできて、これらの記述に出会い、ようやく、この本は自分が読むべきではなかったとわかりました。だったら、こういう大事な情報を本の「はじめに」に明記しておいてください。題名に入れてもいいですよ。
逆にいえば、5億円以上の資産のある人には、この本は有用かもしれません。日本から海外に資産を移すだけでなく、住むところも海外に移す海外避難(PT)まで考えられているのですから。
そんなに資産のない人でも、もしかして、5億円以上のお金持ちに対してどんなアドバイスが提案されているのか知りたいという人は、この本を読んでもいいでしょう。著者の前田氏は、プライベート・バンカーだそうですから、プライベート・バンクがどういうものかを知るには、この本が適しているかもしれません。乙は、そういう資産のない人が読めば読むほどこの本は腹立たしくなるだけだろうと思いますが。
乙は、憤慨しつつ、買ってしまった本を書棚に入れようとしたら、何と同じ本がもう1冊書棚にあることに気づきました。以前にもこの本を買っていて、そのことを忘れて今回もまた買って、合わせて2冊も買ってしまったんですね。つくづく情けなく思いました。
繰り返しますが、乙のような間違いをする人が出ないように、「5億円以上の資産がある人に」と最初に明記してください。お願いします、フォレスト出版様。
それを明記すると、そんなに数は売れないと思いますが、しかし、間違って買う人がたくさんいるということは、ある意味で著者および出版社が詐欺を働いているようなものだと言えると思います。そうならないような配慮をお願いします。
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