題名から自分にぴったりの本だと思って買いました。
ファイナンシャルプランナーが、タイトル通り、50歳からの30年をどう生きるかをお金の面から書いた本です。
第1章は、「30年たてばこれだけ世の中変わる」で、30年前の状況を述べ、今といろいろ違っていたことを説明しています。したがって、今から30年後も、今は何ともいえず、状況はまったくわからないというわけです。このあとの記述の序論のような章です。これで20ページもかかるのはかなり冗長な感じです。
第2章は、「長生き対策としての資産運用、資産防衛の必要性」で、ひとことでいうと、自分自身の(50歳から30〜40年間の)ライフプランを作成しようということです。収入(平均的な年金収入)と支出(高齢者の普通の支出金額)の予定を明示し、今いくら必要なのか、今後、年何%くらいで運用していけば死ぬまで大丈夫(資産残高が赤字にならない)かを計算しています。そして、数千万円の退職金を得る普通のサラリーマンにとっては、今後2%/年程度のインフレ率を考慮すると、7%/年程度の資産運用が必要だということになります。この章までで1冊の本の半分を占めます。乙の感じでは、この章も、かなり冗長なように思えます。もっと端的に書けるのではないでしょうか。まあ、具体的な(資産の増減の)シミュレーションの結果を示しながら書くスタイルになっていますから、わかりやすいといえばわかりやすいのですが。
第3章は、「さあ、資産運用を始めましょう」ということで、個人投資家にとっては、ここから読み始めてもいいのではないかと思います。(読む量が半分で済みます!)ここで書かれているのは、アセットアロケーションの話です。p.106 では、ローリスク資産は年率2.5%程度、ミドルリスク資産は年率4.5%程度、ハイリスク資産は年率8%程度のリターンを考えるとよいと書いてあります。で、これを組み合わせてたとえば年率5%の収益率になるようにアセットアロケーションを決めることになるのですが、ここ、なぜ5%なのか、よくわかりません。30年間の生活を考えて、資産がいくらあって、年率何%で運用すれば充分かを考えれば、個人ごとの適切な収益率が求められると思いますが、単純に個人投資家のことを考えると、収益率は5%よりは7%のほうがいいと思います。(それではリスクが大きくなりすぎていけないのですが、そういう話が出てきません。)また、p.114 では、日本株を30年保有すれば年率3%程度の収益になり、このように保有期間が長ければ長いほど、ある収益率に収斂するということがわかるようになっています。それはそうなのですが、では、p.106 でハイリスク資産(株など)のリターンを8%と考えていることと矛盾しないのでしょうか。
p.122 から、日本株、外国株、国内債券、外国債券の伝統的な4分類はもう古いということで、商品ファンド、不動産投資信託(REIT)、ヘッジファンドなどのその他資産を(これまた日本国内と外国に二分して)組み込んで、6分類で考えるべきだという話になります。pp.128-129 では、通貨の種類、リスクの高低と組み合わせてこの6分類を位置づけ、マトリックス・アロケーションというのが提示されますが、乙としては、あくまで例示として見たほうがいいように思います。変額年金保険などがあちこちに現れますが、乙は、こういうのはまったく考慮に値しないと思うからです。
第4章は、具体的な金融商品の選び方を示しています。pp.139-141 で、株式投信は手数料が高くて、買う側には意味がないということが書いてあります。pp.142-144 では、変額年金保険を取り上げて、原商品を組み合わせたものだから、余計なコストがかかるということが書いてあります。だとしたら、p.128 で変額年金保険を組み込んだ案を提示していていいのでしょうか。
第5章では、「この商品は検討に値する!」と題して、商品ファンド、ヘッジファンド、SMA(ラップ口座のこと)を紹介しています。類書にはあまり紹介されないので、この本の独自性があるところだと思われます。最初の商品ファンドですが、pp.158-161 にはオプション・マスターが取り上げられています。乙は、これを購入し、最近、解約しました。
http://otsu.seesaa.net/article/13068411.html
http://otsu.seesaa.net/article/17568213.html
オプション・マスターは、毎年 5.25% という手数料が高すぎて、投資家サイドから考えると、割に合わないように思います。ヘッジファンドについても、pp.170-188 に書かれているように、田中氏は積極派です。乙は、よくわからないというのが本音です。(そうはいいつつ、一部の資金を運用していますが。)SMA(ラップ口座)については、乙はそんなに資産があるわけではないので、はじめから考慮の対象外です。というわけで、第5章も、乙にはあまり有意義な感じがしませんでした。
この本をひとことでいうと、個人がこの本を参考にして資産運用をすることはどだい無理であり、適当なファイナンシャル・プランナーに(できれば、著者の田中氏、つまり銀座なみきFP事務所に)相談しつつ資産運用方針を決めてほしいというスタンスで書かれているように思います。
まあそれはそれで理解できますが、乙は、やはり、資産運用は個人の判断で行うべきだと思います。乙は、FPに相談したくありません。だって、FPといっても考え方がさまざまで、いろいろな本を読んでみるとおすすめのアセットアロケーションにしたってばらばらなんですから、自分が相談したFPが自分に最適な設計をしてくれるなんて期待できないと思います。
この本は、あくまで一人のFPがこういう意見を語っていたというスタンスで読むのがいいのではないでしょうか。
【関連する記事】
- 香川健介(2017.3)『10万円からできる! お金の守り方教えます』二見書房
- 大江英樹、井戸美枝(2017.2)『定年男子 定年女子』日経BP社
- 天達泰章(2013.6)『日本財政が破綻するとき』日本経済新聞出版社
- 安間伸(2015.11)『ホントは教えたくない資産運用のカラクリ 投資と税金編 ..
- 橘玲(2014.9)『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 2015』幻冬舎
- 橘玲(2014.5)『臆病者のための億万長者入門』(文春新書)文藝春秋
- ピーター・D・シフ、アンドリュー・J・シフ(2011.6)『なぜ政府は信頼できな..
- 小幡績(2013.5)『ハイブリッド・バブル』ダイヤモンド社
- 吉本佳生(2013.4)『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)講談社
- 川島博之(2012.11)『データで読み解く中国経済』東洋経済新報社
- 吉本佳生(2011.10)『日本経済の奇妙な常識』(講談社現代新書)講談社
- 野口悠紀雄(2013.1)『金融緩和で日本は破綻する』ダイヤモンド社
- 吉田繁治(2012.10)『マネーの正体』ビジネス社
- 午堂登紀雄(2012.4)『日本脱出』あさ出版
- ウォルター・ブロック(2011.2)『不道徳な経済学』講談社+α文庫
- 内藤忍(2011.4)『こんな時代を生き抜くためのウラ「お金学」講義』大和書房
- 瀬川正仁(2008.8)『老いて男はアジアをめざす』バジリコ
- 増田悦佐(2012.1)『日本と世界を直撃するマネー大動乱』マガジンハウス
- 藤沢数希(2011.10)『日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門..
- きたみりゅうじ(2005.10)『フリーランスを代表して申告と節税について教わっ..