全体は5章構成で、目次は以下の通りです。
第1章 「国家破綻」に至るシナリオ
第2章 税と世代間の負担をどうするか
第3章 社会保障をどうするべきか
第4章 経済成長の鍵となる考え方
第5章 真の「政治主導」の実現を
乙が一番関心があったのは第1章でした。
p.28 では、政府の債務をどう考えるべきかについて、土居氏が述べています。グロスの政府債務(総債務)や政府保有の金融資産分を相殺消去したネットの政府債務(純債務)などで見ることが普通ですが、OECD の統計では将来の年金給付債務が含まれていない一方で、政府保有の金融資産に年金積立金が入っていることなど、いろいろな事情があります。そのため、国民が将来税金で負担する政府債務の総額として「グロスの債務」プラス「年金給付債務と覚しきもの」マイナス「外国債」マイナス「金融資産」という計算をしています。
こんなことでも、論者によって違う基準で話をしたりするわけですから、まずは、このあたりで合意ができないとどうしようもありません。土居氏のこういう基準は、本書を読む限りもっともだと思えます。
p.38 では、鈴木氏が年金・医療・介護の債務超過について述べています。厚生年金と国民年金で、現在支払を約束している年金受給総額だけで800兆円の債務超過だというわけです。すごい数字です。さらに、医療で380兆円、介護で230兆円で、三者を合計すると1410兆円という、いよいよどうしようもない数字が出てきます。実際には、さらに、共済年金の債務の問題(200兆円?)があるし、年金の計算で厚労省が将来の利子率を 4.1% という高い利率で計算している(実際はこれより低くなることはほぼ間違いない)という問題まであります。どう考えても、日本の財政は破綻しているとしかいいようがありません。
第3章では社会保障を取り上げていますが、p.98 で、社会保障費と社会保障関係費について鈴木氏が説明しています。社会保障とは社会保険(年金、医療保険、介護保険、雇用保険など)であり、それとは別に社会保障関係費という支出があり、これには生活保護の他に、根拠不明の支出(医療保険で国が4割ほど負担する分とか、後期高齢者医療制度や国民健康保険で国が半分くらい負担している分など)がものすごく多くなっています。このあたり、国のあり方を考えると、今の制度でいいか、大いに疑問が残ります。
第5章では、政治や官僚の問題が扱われます。p.201 の竹中氏のことばが印象的です。「いまの制度でいちばん困るのは、能力のある人があとから入ることができないことです。キャリア制度の下だと、そこに能力のある人が40歳で入ってきて、5年間、不良債権処理をやろうと思っても、自分より能力の低い人に使われることになってしまう。それがわかっているから、能力のある人はあえてそんなバカバカしい仕事をしようとしない。」何ということでしょう。この一言で官僚制度の問題をするどく突いてしまいました。もっとも、だからといって、この制度がそう簡単に「改革」できるとも思えませんが。
本書は、全体として、今の日本の政治と経済の問題をズバリ指摘している内容になっています。
4人の話し合いのスタイルで書かれていますので、(たぶん、実際にそういう話し合いがあり、それを文字化して、お互いに手を入れたのでしょう)読みやすいと思いました。しかし、きちんと図表なども入れて、しっかりした作りになっています。
今の日本の政治と経済を考える人におすすめの内容です。
参考記事:
http://koutou-yumin.seesaa.net/article/192317020.html
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