怪しげなタイトルですが、レジャーホテル・ファンドについて書かれています。
乙は、すでに自分が投資しているレジャーホテル・ファンドについて、ブログに書きました。
http://otsu.seesaa.net/article/15111327.html
この本は、1,300 円の定価が付いていますが、実際は、乙が運営会社のG.F.S.主催の(リニューアル後の)レジャーホテルの内覧会に出向いたときに係りの人から無料でもらいました。内容は、レジャーホテル・ファンド「HOPE α」シリーズの宣伝であり、ファンドのパンフレットみたいなものです。基本的には、レジャーホテル・ファンドの有利性を述べている本であり、欠点はまったく書いてありません。この手の本は、執筆者がファンド会社と別にいても、実際はファンド会社と一体になった人が書いており、ファンド運営会社に都合のいい話しか書いてありませんから、記述を 100% 信用してはいけないものです。眉にツバを付けながら読むくらいでいいでしょう。
この本の内容についてうんぬんするということは、実はファンドそのものについてうんぬんすることになります。そのつもりで以下をお読みください。
さて、このファンドのいいところは、8.4% の利回りが予定されているところです。上限は 12% という話ですから、なかなかのものです。今の日本ではとてもおいしい話です。しかし、投資話で、高利回りをうたっているところは、必ず何か隠された秘密があります。
橘玲氏が『臆病者のための株入門』
http://otsu.seesaa.net/article/19337369.html の第7章で述べているように、ホントに安全で有利な投資話であれば、金融機関が、もっと低利でいくらでも資金を貸してくれるでしょう。今の日本のような金余りの社会では、相当な低利率で借りられるはずです。そういう状況の中で、ファンド会社が手間暇をかけて(しかも高利回りをうたいつつ)個人投資家を募っているということは、金融機関が融資してくれないわけで、つまりそれはそれなりのリスクがあると金融機関が判断しているということです。
ですから、この手の本を読むとき、一番のポイントは「なぜ、金融機関から低利の融資を受けずに、個人投資家から高利で資金を集めるのか」という点です。この点が納得できなければなりません。
山村氏は、p.64 から、誰でもが参入できないからこそ、レジャーホテル・ファンドの魅力があると述べています。金融機関が運用会社に融資しないのは、レジャーホテル・ファンドに融資すると金融機関のイメージが傷つくからだというわけです。p.133 以降にも同様の記述があります。
乙が、この論理にしたがえない部分は、「金融機関がイメージ悪化を恐れて融資しない」といいながら、pp.176-183 で、このファンドがノンリコースローンを導入して高収益を挙げると書いている部分です。p.177 では、このノンリコースローンとして、金融機関から 2% の金利で融資を受ける話が書いてあります。これが可能なら、ファンド全体として(というよりも、会社として)、8.4% の予定利率を示して個人投資家を募るよりも、金融機関から 2% の利率で資金を融資してもらうほうがいいに決まっています。
そもそも、金融機関が「イメージ悪化」ということでレジャーホテルに対する融資を断るなんてことがあるのでしょうか。違法行為をするわけでもなく、きちんと利益を上げている会社があるならば、積極的に融資するものではないでしょうか。銀行は、法律的にグレーゾーンの行為(ある見方では違法行為です)をしている消費者金融にも融資をするくらいなんですから、レジャーホテルだからといって融資をしないとは考えられません。
p.135 では、今、新生銀行と東京スター銀行がレジャーホテルをビジネスとしてとらえようとしている話が書いてあります。山村氏は、だから個人投資家は早いうちにこのファンドに投資しなさいといいたいようです。しかし、本当にこのファンドに魅力があるなら、金融機関が G.F.S. にそういう融資をするはずです。さらには、金融機関の直接参入がどんどん起こるはずです。そうならないのは、やはり、著者が語っていない何か隠されたリスクがあるからだと乙は思います。
では、どんなリスクがあるのでしょうか。
乙は、この業界のことはまったくわかりませんから、以下は、単なる憶測で書きます。
乙が思うに、一つの問題は、レジャーホテルをリニューアルして、高収益体質にしたとして、それが5年間も続くのだろうかということです。このファンドは、インカムゲイン(つまり利用客が払う代金)に依存していますから、5年経たないうちに利用者が減ってしまえば、利益が出ず、配当が下がります。
もう一つの問題は、(こちらのほうが大きな問題だと思いますが)しかるべき配当を出して運用した後、出口戦略をどうするのかという問題です。リニューアル時に計算された資産価値を5年後も保つことができるでしょうか。こればかりはわかりません。管理保守がどのように行われるかでも相当に違ってきます。5年後にふたたびリニューアルするということで、その後また収益が上がることになったとしましょうか。そのまま投資を継続して10年後まで建物が持つのでしょうか。20年後は? 40年後は? 乙は、いつかは資産価値がなくなると思いますが、その時点で損失をどう扱うのでしょうか。それを考慮した場合に、今現在の資産価値をどう考えればいいのでしょうか。会計上の減価償却はしているにしても、実際に長期の運用をする場合は、減価償却とは別の「何か」が必要なのではないでしょうか。山村氏は、この問題に触れずに、5年間の運用で利益が出るようにいっていますが、いざ、5年後に償還することになったとき、それまでの配当金はインカムゲインに基づき 8.4% の計算で出たとしても、キャピタルゲインがなく、それどころか、多額のキャピタルロスが発生し、大幅な元本割れが起きないとは言えません。
もちろん、キャピタルロスが発生すれば、劣後出資している G.F.S. が全損を被ることになります。それでいいのでしょうか。HOPE α3 でいえば、投資家の優先出資6億4千万円に対して、G.F.S. の劣後出資額は9千万円で、出資総額は7億3千万円です。利益は、最も低く見積もっても毎年 15% くらいはありそうですから、1億円程度です。8.4% は 15% の約半分になりますから、1億円の利益の半分は投資家に配分します。すると、G.F.S. は5千万円程度の利益になります。これが5年間続けば、会社の利益は2億5千万円ですから、償還時に劣後出資額9千万円を全損してもいいという判断はあり得ます。
繰り返しますが、以上は乙の勝手な憶測です。
これらの二つの問題を考慮すると、やはり、投資した後、5年の運用期間を経験し、償還まで一通り見てみないと、ホントに有利な話かどうかは何ともいえません。最も早い場合でも、HOPE α1 の償還を見なければ、実績は何ともわかりません。
乙は、HOPE α3 に投資していますが、完全に信頼して投資しているわけではありません。語られていないリスクの存在(上述の二つは乙の憶測にすぎず、それらだけが問題だというわけではありません)を考慮すると、この手の話に資金を集中するのは危険だと思います。
p.194 では、HOPE α2 で 300 万円を投資し、きちんと運用されることに安心したのか、HOPE α3に 3000 万円を投資した投資家の話が出て来ます。仮にこの投資家が3億円を運用していたとしても、10% もの比率でこの話に加わるのは比率が高すぎるように思います。しかも、HOPE α2(2005.1 開始) と HOPE α3(2005.7 開始)では、半年しか離れておらず、実績は何とも判断しようがないものです。人様のことですから、乙とは関係ありませんが、世の中にはそういう人もいるんだなあと乙は感心しました。
p.194 によれば、投資家の平均投資額は、一人あたり500万円だそうです。皆さん、すごいんですね。
乙は、出資額を最低額の50万円だけにして、5年間ようすを見ようと思っています。あ、すでに1年経ったからあと4年ですが。無事償還されたら、その次はもう少し集中させてもいいかもしれません。それでも、500万円まではいかないと思います。
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