2006年06月28日

山崎元(2002.7)『山崎元のオトナのマネー運用塾』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。
 末尾には、「本書は『週刊ダイヤモンド』の連載(2000.4.8-2002.2.23)および LOOP 掲載の文章に加筆・修正したものです。」とありますから、実際に書かれたのは、さらに古いというわけです。
 一部の記述は、確かに古いところがあります。しかし、いい本は数年経ってもいい本ですから、そんなに気にすることはありません。
 山崎氏はファンドマネージャーを長くやっていた人なので、そういう目でものを見ています。元が週刊誌の連載だったということもあり、短い記事が続いていく印象を持ちました。
 以下、乙がおもしろいと思ったことをいくつか抜き書きしておきます。
 p.19 では、運用ではコストが最重要という話が出て来ます。これをひとことでいえば「売り手側の儲けが大きいものには投資するな」(p.21)です。乙は、オプション・マスターでそれを痛感しました。
http://otsu.seesaa.net/article/17568213.html
 pp.46-48 でも運用のコストの話が再度出てきます。
 p.23 では、「初心者向けの運用商品などない」という話が語られます。これも、乙が感じていることをはっきりと指摘してくれました。
 pp.48-55 では、ファイナンシャル・プランナーへの不信感が語られます。p.51 では、旧来型のマネー・プランは役に立たないと断言しています。乙がうすうす感じていたこと
http://otsu.seesaa.net/article/19537879.html
を山崎氏は明確に書いています。
 p.87 では、パッシブ運用の三つのメリットが挙げられています。@コストが安いこと、Aキャッシュ・ポジションが小さいこと、B中身がわかりやすいこと、の三つです。キャッシュ・ポジションについては、乙も感じていました。アクティブに株式取引をしようとすると、どうしてもある程度の現金をおいておかないといけません。でないと、株価が下がったときに買いに行けません。しかし、これは資金全体としてみれば(遊んでいる金を持っていることになりますから)運用面で不利に働きます。パッシブ運用ならば、手元の現金の全額を株に投じることができます。
 p.94 では、PBR 1倍割れの銘柄を、それだけを根拠に買うことはよくないと述べています。それにはそれなりの事情があるからだというわけです。しかし、乙は、そんなに気にすることもあるまいと気楽に考えています。株価はあらゆることを盛り込んだ結果ですから、PBR 1.0 以下の株を複数買って、ある程度の期間保持していれば、平均的な(TOPIX 程度の)運用よりはよくなるのではないでしょうか。(乙は、単純すぎるでしょうか。気になる人は、このブログの「オール投資徹底検証」の記事カテゴリの記述をご覧下さい。)
 p.110 では、投資のしかたの吟味方法として「この方法が永遠に有効だとしたら何が起こるか」「この方法を他人も利用したときに何が起こるか」と考えるように述べています。時間と空間を広げて考えるというのはとてもいい方法です。ただし、思考実験程度ではなかなかわからない(判断が付かない)ことも多いように思いますが……。乙は、実際に試してみることもあっていいように思います。
 pp.127-130 では、個人投資家にとってアナリストのコメントは役に立たないという話が出て来ます。そんなものでしょう。橘玲氏
http://otsu.seesaa.net/article/19337369.html
が論じている株式評論家の話と同じことだと理解します。
 p.142 では、株の期待リターンは 11-13% くらいだという話が書いてあります。機関投資家の期待値だそうです。かなり高いですが、乙がいろいろな人(機関投資家ではなくて単なる個人ですが、銀行関係者など、業界に関係している人を含みます)と話をした感じでは、株のリターンといえば、だいたい 10% くらいを考えている人が多いようです。p.143 では、この期待リターンは高すぎるという山崎氏のコメントが書いてあり、まあ、あまり期待しないほうがいいようですが。
 pp.190-191 では、アクティブファンドで、必要な人件費などのコストを考えると、運用額は 1000 億円くらいがちょうどいいと述べています。現実には、こんな大きいファンドは少ないと思いますが、ということは、ファンド会社が儲からず、きちんとした投資ができないということで投資家にもよくないということになってきます。乙は、20億円くらいをファンドの運用額の下限と考えていました
http://otsu.seesaa.net/article/12678037.html
が、現実の下限はそれよりずっと大きいと見るべきかもしれません。
 p.193 では、投資信託の場合、1.5% の信託報酬は高すぎるとのことです。となると、最近は 1.5% くらいの信託報酬の投資信託が多いので、なかなか投資信託を選べなくなりそうです。p.236 では、投資信託のコストについて、ベンチマークを運用報酬の2倍分上回る利回りが目標となるといっています。1.5% の報酬を受けるファンドであれば、ベンチマークを 3% 上回るということになります。これはなかなかむずかしいでしょうね。というわけで、p.194 にあるように、山崎氏は ETF によるパッシブ運用を勧めることになります。乙も、だいぶこの考え方に傾いてきました。
 p.238 では、ファンドの成績を見るのに5年では短すぎるといっています。実際は、3年とか5年で見る人が多いし、各種データもそういうのしか用意されていないので、山崎氏の発言は理想論になってしまっています。しかし、あるべき姿を知ることも意味があると思いました。
 この本は、全体として、まじめな本であり、お勧めできると思います。自分のわずかばかりの投資の経験と山崎氏の指摘をあわせて考えると、うなずけるところがたくさんあります。


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posted by 乙 at 04:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 投資関連本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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