例によって、澤上流の主張が一貫して語られますが、この本では、かなり具体的に長期投資家になるための方法論(つまりは長期投資家の考え方)が説かれています。
株の売買に関して、いくつもおもしろいことが語られます。
p.94 では、アセット・アロケーションをダイナミックに変えていくべきだという話が登場します。乙も同感です。この点では、乙は固定的なアセット・アロケーションを説く投資本にはむしろ反発を覚えます。一見、株(それも日本株)ばかりを扱っているように見える澤上氏ですが、それは、今の状況が日本株に向いていると判断してのことでしょう。澤上氏がこういう判断をしていることを大変おもしろく思いました。
pp.128-133 では、株価の底と天井はなかなかあてられないということが書いてあります。乙も、わずかばかりの株取引の経験から、底で買って天井で売るという話は簡単でも、実際はなかなかそうはできないことを痛感していました。株のプロである澤上氏もそう言っているのですから、「底」と「天井」を目指すのではなく、「底付近」と「天井付近」を狙うようにしましょう。とはいえ、実際はそれすらむずかしいのですが。
pp.134-142 では、日本株の投資家は順張り主義が多いということが述べられます。長期投資家とはずいぶん観点が違います。しかし、事実は事実ですから、そういう日本株の動きを前提にして、うまく立ち回るようにしなければなりません。このあたり、乙ももう少し研究してみたいと思います。
p.141 には、個人投資家の場合、自分の好きな5〜10銘柄に限って暴落時に買うというパターンを採用してみるのもよいといっています。確かにそうでしょう。しかし、本業の仕事を持っている人間の場合、自分が保有しない個別株の暴落を察知するのもなかなか面倒なものです。たえず株価に注意を払っていくにはどうしたらいいのでしょうか。乙は、仮に、5〜10銘柄の最低売買単位だけ株を買っておく手がありそうに思います。自分が株を保有していれば、その分の株価の変動は、比較的わかりやすいです。たとえば、イートレード証券ならば、自分の保有する株価はいつでも一覧できますし、チャートへのアクセスも簡単です。株価の動きを追いかけつつ、下がったところで追加買いをし、上がったところで最低売買単位を残して売るというようなやり方はどうでしょうか。
p.157 から株購入の対象銘柄を探る話が出て来ます。ここで、経済全体の流れを読むのが5割、ビジネス環境のチェックが3割、そして、その企業の分析が2割だと説かれます。この話も興味深いものです。株価は、単に個別企業の成績だけでは決まらないことは、乙も経験的に感じていました。銘柄リサーチに関する澤上氏の主観的な配分比は、なるほどと思わせられます。
p.198 から「ハイテク株は儲からない」という話になります。なぜそうなのかは本書を読んでください。乙は澤上氏の説明に納得しました。
さて、最後まで読んだ後で、ふと疑問に思いました。この本を読んで実践すれば、「長期投資家」になれるでしょうか。残念ながら、乙の場合はなれそうにありません。個別銘柄の選択にしても、かなり手間がかかりそうです。能力的に不可能だとは思いませんが、時間的に厳しいです。
ということで、乙がこの本を読んで思ったことは、二つあります。
一つは、自分で長期投資するのはむずかしそうだから、代理人に頼もうということです。つまり、さわかみファンド
http://otsu.seesaa.net/article/14016027.html
に投資すればいいということです。
もう一つは、勉強すればするほど、株取引の難しさがわかってきたということです。そう簡単に儲かる手段なんてありません。ということで、個別銘柄について勉強しないで済むインデックスファンドあるいは ETF で運用する方がはるかに楽だということです。
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