まえがきには、「本書の親本は、2001年7月にメディアワークスから刊行された『ゴミ投資家のための人生設計入門[借金編]』であり、その後、前半部分(人生設計編)は『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』、後半部分(ファイナンス編)は『得する生活』へと展開された」とあります。乙が自宅の本棚を見たら『ゴミ投資家のための人生設計入門[借金編]』もありましたが、これは読む必要がないということです。(1600 円もしたのに。)前著は横書きだったので、そちらのほうが読みやすかったのですが。
内容は、人生設計編とファイナンス編に分かれ、それぞれに充実した記述がなされています。
pp.14-34 では、サラリーマンは給与所得控除があるから恵まれているということと日本の税金が安いことを述べます。日本の税金が安いというのは乙には意外な事実でした。
pp.35-55 では、サラリーマンが年金と健康保険で略奪されていることを述べ、サラリーマンが個人で法人化すれば自営業者の節税策をサラリーマンも利用できると説いています。日本の今の制度を巧みに利用したおもしろい議論です。しかし、個人の力ではなかなかこうはできないでしょうね。
pp.56-67 では、国民年金や健康保険を廃止し、所得税は憲法違反だからやめようと主張します。その上で、郵便事業も、郵便貯金も、年金も、医療保険も、公立学校も、治安維持も、公共事業も、全部民営化できるといいます。いわゆる小さな政府論ですが、これで税金が安くなれば、それはそれで日本が住みやすい国になりそうです。(現状では、反対勢力が強すぎて、実現はほぼ不可能でしょうが。)
pp.68-80 では、お金持ちになる方法を説明しています。支出を減らせばいいのですが、それに関連して、パラサイトシングルがいかに恵まれているかを明確に論じています。確かにそうですよね。
pp.81-118 では、人生における大きな買いものとして、教育(子育て)と不動産(住宅)と生命保険が語られます。ついでにクルマの購入やリースの話も出て来ます。ワンルームマンションの話もあります。みんなうなずける議論です。
pp.118-139 は、インフレとデフレの話で、特にインフレ対策が重要です。
pp.139-155 では、経済的な独立を議論します。一生暮らしていくためには1億円あればいいという話です。これに合わせて、脱サラして農業をはじめる場合や、PT として海外で暮らす場合などもお金の面から考えています。
これらの議論はいずれもおもしろく、説得力があると思います。乙は、この本を読んで、自分の人生設計を見直そうと思いました。でも、やっぱりやめました。今のサラリーマン生活でも、それなりにうまく動いていますし、新しいことをはじめるには、それなりの努力と実行力が必要です。若いころならまだしも、最近はこのような新しい努力は乙にはきついと感じるようになってきました。
p.158 からはファイナンス編ということで、借金の話になります。融資と借金は同じことを別の面から見ているわけですから、投資を考える上では、借金の話も重要です。本書では、各種レンタル業と金融業を同列に並べて論じるなど、これまたユニークな議論が展開されます。
pp.226-229 では、債権回収の汚い話が展開されますが、いずれも乙が知らなかった話で、大変おもしろかったです。
p.243 では、なぜプロのトレーダーが金融先物や商品先物でプレイしているかが説明されます。p.239 の表にあるように、金利がゼロでお金が用意でき、高いレバレッジがかけられるからなんですね。納得しました。
p.260 からは、国の教育ローンが金利が安いので、200万円を借りて、投資に回したらいいという話が出て来ます。これを知っても(大学生の子供がいる乙として考えましたが)、理屈としてはそうなのですが、たった200万円のために、そこまでやるかといった気持です。利回り7%で4年運用すれば(複利計算で)80万円ほどのリターンが得られます。そうはいっても、たった80万円です。他人に頭を下げて(いわれるがままに書類を用意して)200万円しか工面できないのでは、あまり意味がなさそうです。「あの人は200万円が払えなくて借金している」と見られているだけで、プライドが傷つく気分です。このようなことを考える人間では、正しい人生設計はできないのでしょう。わかっちゃいるけど……という感じです。
ファイナンス編では、とにかく、今の日本の諸制度を徹底的に見直し、その中でどのようにして人生設計をし、借金をするかを議論しています。何といっても、ここまで書くことができる橘玲氏および海外投資を楽しむ会には脱帽するしかありません。
そんなわけで、全体として大変わかりやすく、オススメの1冊といえるでしょう。
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