これまた、目が覚めるような本です。人生を左右するいくつかの問題について、投資の観点から日本社会を眺め、その仕組みを解き明かし、どこに問題があるかを指摘しています。乙は、大変おもしろく読みました。若いときにこういう本を読んでいたら、その後の人生が大きく変わったかもしれません。
この本は文庫本ということで、たった 800 円で買えますが、非常におトクです。
末尾には、この本が(1999.11)『ゴミ投資家のための人生設計入門』メディアワークス を再編集したものだと書いてあります。
第1部は「不動産は人生にとってほんとうに必要か」です。
pp.34-35 では、不動産を買ってよかったという感想は、支払った代償の大きさが自分の判断を正当化するからだという説明がなされます。自己開発セミナーの料金が高い(100万円!!)のも、そのほうが参加者が満足するからだそうです。すごい説明です。投資関係でも高い会費を取る会員制のクラブがあります
http://otsu.seesaa.net/article/13495488.html
が、それも、同じ考え方で説明できるでしょう。
p.55 では、住宅ローンがレバレッジを高めているのだという説明がなされます。これまた重要な指摘です。こうして、住宅ローンの意味は完全に解き明かされました。
pp.86-89 では、戦後の日本で「土地神話」がなぜ成立したのかを説明しています。@地価と株価、A為替、Cインフレ率 の3点で説明すれば完璧です。しかし、p.88 で述べられるように、今はこれが当てはまりません。
こうして、第1部としては賃貸住宅のすばらしさを説いて終わります。親から独立して、アパートでも借りるころに、あるいは結婚するころに、この本に出会っていれば、人生設計が変わるでしょう。若い人にオススメの章です。
第2部は「6歳の子どもでもわかる生命保険」です。
p.187 では、保険会社がいかにボロ儲けをしているかが説明されます。つまり生命保険は高コストということであり、(人生の一時期をのぞいて)入る必要はありません。
第2部は、生命保険に入ろうとする前に、ぜひ読んでおきたい章です。これまた若い人にオススメの部分です。
第3部は「ニッポン国の運命」です。年金・健康保険・財政赤字などの話です。
p.236 では、年金のドンブリ勘定ぶりが描かれます。こうして、なぜ、どんな問題が起こっているか、十分に説明しきっています。
pp.295-296 では、財政赤字の解決のために、増税とハイパーインフレを考えています。もっとも、ハイパーインフレについては「陰謀論」と呼んでいますので、橘氏等が本当に起こると考えているのかどうかはわかりません。
pp.299-301 では、個人資産 1200 兆円というのは日本の財政再建には役に立たないという考え方を示します。p.302 では、ニッポンを株式会社としてみる図式が示されており、これまた興味深いものでした。
第3部の結論は、p.310 にあるように、公的部門を縮小せよということになります。橘氏等の主張は理解できますが、実際、この政策がどれくらい受け入れられるでしょうか。日本(特に政治家や官僚)の現状を見ると、実現はきわめて困難でしょう。ということは、それに対応した生き方を考えなければなりません。この章は、すべての年齢層の人に読んでほしいと思います。
第4部は「自立した自由な人生に向けて」です。高額な教育費・少子化・PT (Perpetual Traveler) などについて述べられており、乙は同感を持って読みました。p.321- の学校崩壊がなぜ起こるかの説明も納得できます。
p.334 には、本書で最も重要なことが述べられます。「子どものいる夫婦は家を買ってはいけません。」ずいぶん極端な主張に思われるかもしれませんが、お金の面から考えると当然の結論のように思えます。乙の場合は、子ども2人がいながらマンションを買ったのですが、それは、夫婦共働きだったからです。乙も子育てに積極的に関わり、妻は仕事を継続することができました。住宅ローンを組みましたが、繰上返済を急ぎ、比較的短期間で返済を終えてしまいました。しかし、今から思うと、賃貸の方がよかったかもしれません。居住していたマンションの売却で大きな損失を出してしまったからです。
http://otsu.seesaa.net/article/14879201.html
若い人(これから結婚し子育てをする人)は、賃貸のほうがいいと思います。特に、子供が生まれたときに共働きが続けられないような夫婦は、収入がそれだけ少ないわけですから、賃貸にしなければなりません。そして、家賃を払いながら、ローンを借りたつもりになって、ローンの返済額と家賃の差額分を少しずつでも投資するようにすれば、結果的に現金で家が買えるほどの資産を作ることができます。
この本は、全体として、日本社会の仕組みを基本から説明してしまったと言えます。乙は、頭の中が整理され、すっきりしたという読後感を持ちました。多くの人にこの本を読んでもらい、価値観を共有したいと思いました。
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コメントさせて頂きます。
会社の先輩が次々とマンションを
買っています。おおよそ6000万円から
1億円といったところでしょうか。
会社から6000万円ほど借りて、
8000万円ほど返す計算だそうですが、
月々20万円返済する生活を35年続ける
というのが、イメージです。
私は、7000万円のマンションに
35年住み続けるのは現実的なのかな??
と思ってしまうのです。
ただ、自分の場合、
一戸建てならばいいのでは
という気持ちがあります。
してみると、「家を持つ」ことは、
資産運用の観点だけでなく、
「安心感」や「人生の満足感」などと
関係しているのかもしれませんね。
ちょっと気になったので、
この本も買って読んでみようと思います。
乙は、ファイナンシャル・プランナーでも何でもないので、あくまで一個人としてコメントします。
ローンを6000万円を借りて、35年返済で8000万円の返済総額になるとすると、金利は 1.75% ほどになります。元利均等返済で毎月20万円ほどを返し、ボーナス返済なしという場合です。この金利はかなり低いので、会社からの借り入れはいい選択肢であると思います。(たぶん会社が従業員のために特別に低い金利にしているのでしょう。)
同じく 6000 万円のローンでも、1億円の物件で、4000万円の自己資金があるとすればいいでしょうが、7000万円のマンションに自己資金1000万円で住むのは、お勧めできないと思います。レバレッジ7倍というのは、ハイリスクすぎます。それに、自分の資産が不動産に大きく偏ることになるので、投資という面から考えると、好ましくない状態です。
乙の感覚としては、住宅ローンの返済に35年もかけずに、さっさと繰上返済をするようにするべきでしょう。
戸越の二人さんの人生設計のあり方にもよります。コメントの文面から、たぶん、お若い方でしょうから、これから子供が生まれるようなこともあるでしょう。子どもの教育費も相当にかかりますから、こういうマンションに住みながら教育費を払うとすると、かなりの高収入でないとやっていけないと思います。
このあたりは、橘氏の本に具体的に書かれていますので、読んでみた上で、再度考えてみてください。