2011年06月10日

荒川雄一(2011.3)『海外分散投資入門』パンローリング社

 乙が読んだ本です。「日本が財政破たんしても生き抜くためのノウハウ」という副題が付いています。
 「はじめに」に「本書は、2008年11月に発行された『着実に年10%儲ける「海外分散投資入門」』(実業之日本社)の改訂版です。」とあります。
 前著については、乙はすでに読んでいました。
2009.1.12 http://otsu.seesaa.net/article/112487936.html
 タイトルが変わっていたので、新著だと思って図書館から借りて読んでしまいました。
 前著について述べた問題点は繰り返さないことにしましょう。
 p.156 オフショア地域では、投資家も運用の途中で税金を源泉徴収されないと述べた上で、「一方、日本国内で設立したファンドの場合、毎年決算を行い、利益が出れば税金を支払わなければなりません。」と書いています。しかし、これは間違いです。利益が出た上で、それを投資家に分配すれば、その時点で税金がかかりますが、分配しなければ税金はかかりません。まあ国税庁の指導で日本のファンドは分配を強制されている(?)ようですが、それはまた別の問題です。
 というわけで、オフショア地域のほうが途中で課税されないから有利ということにはなりません。
 p.179 でファンド選びのポイントを述べていますが、次のような記述があります。
 「第4のポイントは、いうまでもなくファンドの過去のパフォーマンスです。設定当初の1〜2年だけ良くて、その後、急激に悪くなるようなファンドもありますので、注意が必要です。」
 この第1文と第2文は矛盾しているように思います。第1文では過去のパフォーマンスを見よと言っているのに対し、第2文では、その後急激に悪くなることがあると言っています。第2文が妥当ならば、第1文の主張とは違って、過去のパフォーマンスを見てもしかたがないということになります。
 p.191 海外分散投資のステップ1として「通貨分散」がうたわれています。これが間違いであることは前の記事
2009.1.12 http://otsu.seesaa.net/article/112487936.html
2007.2.23 http://otsu.seesaa.net/article/34452967.html
で書きましたので省略します。
 こういうことをいまだに書いているという点で、乙は荒川氏の論述を全面的に受け入れられないと考えます。
 p.217 アドバイザーに対する報酬について書いてあります。荒川氏は、日本の金融商品について、運用結果の如何に関わらず、固定的な手数料を取っていることを述べ、それよりも PMS(ポートフォリオマネジメントシステム)のやり方は 1.0% プラス成功報酬だから、資産残高が増えないとアドバイザーの手数料も増えないので、アドバイザーは顧客の資産を増やすことに真剣に取り組むとしています。これを「Win-Win の関係」と呼んでいます。
 しかし、これは違います。成功報酬(普通は上昇分の2割ですが)は、Win-Win の関係とは限りません。こういうアドバイザーが一番儲けるやり方は、運用方針を思いっきりハイリスクにすることです。万が一大きく儲かれば、その2割ががっぽり手に入ります。万が一大きく損をすれば、投資家がかぶります。顧客の資金をいろいろなハイリスクのファンドに振り分けるようにしておけば、顧客が損をしても、アドバイザーが儲けることが可能です。
 なお、1% プラス成功報酬というのも(昔はそんなものかと思っていましたが)今は高いと思います。

 こういう本を読むと、海外ファンドに手を出したくなりますが、そんなにうまくいくものではありません。本の記述の中にどういうウソが含まれているかを見抜くことはむずかしいことです。かなり知識が身に付いてからでないと、ウソは見抜けないと思います。
 本書のように、正しいこともいろいろ述べているけれども、一部に間違った記述があるというのは本当に困りものです。こういう本を信じて海外ファンドに飛び込む人が出ることになります。


【関連する記事】
posted by 乙 at 14:40| Comment(4) | TrackBack(0) | 投資関連本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
この部分について
---------------------------------
 p.179 でファンド選びのポイントを述べていますが、次のような記述があります。
 「第4のポイントは、いうまでもなくファンドの過去のパフォーマンスです。設定当初の1〜2年だけ良くて、その後、急激に悪くなるようなファンドもありますので、注意が必要です。」
 この第1文と第2文は矛盾しているように思います。第1文では過去のパフォーマンスを見よと言っているのに対し、第2文では、その後急激に悪くなることがあると言っています。第2文が妥当ならば、第1文の主張とは違って、過去のパフォーマンスを見てもしかたがないということになります。
-------------------------------
本の著者が言いたいのは、

「(たとえば)過去10年を見て、初年度と次年度だけがよくて3年目以降から成績落ちたりしていないか、ちゃんと確認しましょう」という主張です。

乙川氏は無理やり斜めにみて難癖つけるのが好きだね 普通、文脈で読めないかな?
Posted by 揚げ足取るな at 2011年06月16日 12:04


乙川さんの指摘するとおり本のうそを見抜くには経験が必要です

そもそもメイヤーや荒川氏の経営する会社は違法のようですが・・

違法・合法の会社リスト
http://www.minkaigai.com/archives/category/anshin/yuuryou

合法会社の見分け方
http://www.minkaigai.com/archives/630
Posted by 海外投資で検索してきました at 2011年06月16日 12:17
別に荒川氏の肩を持つつもりは毛頭ありませんが、「揚げ足取るな」さんも指摘なさったように、殆ど「言いがかり」のための「言いがかり」だと思います。

税金の関係については、結果的に日本で徴収され、オフショアで徴収されないなら、その因果関係はどうでもいいんじゃないですか?少なくともムキになる必要ないと思います。

また、この本に於ける著者の通貨分散のスタンスは、
@JGB暴落を危惧するなら、通貨分散を行うべし。
Aそのためにも、オフショアファンドを活用すべし。
B国内で販売のファンドだと何故ダメかというと、「通貨分散にならないからではなく」、パーフォーマンスが悪過ぎて、最初から相手にしてないから。
C「円高による為替差損が金利で完全にヘッジできるなんてデマを並べやがって」と憤るよりも、「そういう着眼点もありますね」くらいに受け取るのが正常な頭だと思います。

まあWIN−WIN関係の指摘についは、徹底的に疑うなら、そういうロジックも成り立ちますけどね。

確かに、そううまくいくものではないかもしれませんが、余分な知識ばかり身につけて、自分の長期分散投資の方は芳しくないから、曲解がやたらに多くなるんじゃないですか?

そもそも、絶対に正しい投資本なんてこの世にあるの?内容の半分でも役に立てば、かなりな良書の部類だと、私は思うけど。
Posted by 投機志向 at 2011年08月26日 18:14
RE)「海外投資で検索してきました」様のコメント

サイト 「みんなの海外投資」で荒川氏が経営する「IFA JAPAN」が名指しで「違法業者」と書かれている事について、同社はそのメルマガ(2011/10/21)で次の見解を示しています。

http://archive.mag2.com/0000121186/index.html

その要旨:
@こんなサイトなんて初めて見た。
A「IFA”ジャパン”」っていう会社、我社の事なの(苦笑)?
B違法と断定する論拠なんか何も書かれていませんね?
Cサイト運営者が実在するかどうかもわからない。
D特定の会社への誘導目的で書かれたサイトですか?
E出るとこへ出て「名誉毀損」を訴えてもいいけですけど、相手にする必要なし。
F匿名のサイト利用者が気楽で無責任なのは当たり前でしょ?

上記に対する私の見解:
@ 当該サイトはオフショア投資に関して、最も認知度が高く、影響力の大きいサイトであり、その業界にいてこのサイトを知らない事など自慢にならない。
A横に(荒川雄一)と実名を並記してあるだろ! オモシロイ冗談のつもり(苦笑)?
B 「クライアントと事前に投資助言契約を結ばないでファンドを紹介しているから違法」と明確に書かれている。それが事実か、事実だとしたら違法なのかは別問題として。
Cサイト運営責任者「早坂俊輔」なる人物は、著名ではないが、実在の人物である。
Dサイトでは「アブラハムプライベートバンク」が最優良助言業者とされ、「アブラハムプライベートバンク」の方では、上記Bを違法業者の論拠としてデカデカと広告へ掲げているのは事実だが、これを以て「特定業者への誘導」とするには、客観性に乏しい。
E荒川氏は、国内の資産運用の実情を憂えてそれを改革するという高邁な理想を標榜しているが、それが氏の本心であるなら、自社に非がなければそれを明確にする事は、自社の「名誉毀損」問題より以前に、社会に対する氏の最優先の使命であるはずである。
F匿名のサイト利用者が多分に衆愚的なのは事実であるにせよ、不正確きわりない情報の氾濫に真剣に悩んでいるサイト利用者は少なくないはず。

以上、これを以て、氏が経営する「IFA JAPAN」は「悪徳業者」であるとは速断はできないにしろ、氏の高みに嵌った態度(自らが知名度が高いのをいい事に)が、私にはとても鼻につきます。

「悪徳業者」と見られない努力(自分のためにではなく顧客のために)を何もしないなら、「悪徳業者」と見られてもし方ないと思います。
Posted by 投機志向 at 2011年10月30日 13:49
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック