帯に書いてある「“黄金の羽根”のエッセンス!!」というコピーが本書の性格を物語っています。
全体の7割を占める Part 1「幸福の法則」は、もちろん、橘流のおもしろい視点はあちこちにありますが、橘氏の以前の著作と似たようなことが述べられており、あまり新鮮味はありません。
乙がおもしろいと思ったところをいくつか抜き出しておきましょう。
p.30 不安が最大の娯楽だということが書いてあります。橘氏は、日本国の経済破綻の類がなぜ騒がれるのか(なぜそういうテーマの本が売れるのか)、この一言で説明してしまいました。
p.52 では、保険会社、不動産会社などを「不安産業」と呼んでいます。日本の年金問題がいつまでも解決しないことは、不安産業を支援していることになっているという見方が述べられます。おもしろい見方です。
p.61 では、日本で人間用の病院よりも動物病院が豪華な理由を、自由診療だからだと喝破しています。とてもスジが通った説明です。
pp.161-163 では、2000年に行われた日経平均銘柄の大幅入れ替えや、2001年の中国B株の中国人への開放をローリスク・ハイリターンの投資機会ととらえています。だからこそ、そういうことを本に書くことはせずに、それを生かした行動に出るというわけです。後から言われれば、なるほどと思いますが、問題は、そういうことに事前に気付いたかどうかです。乙は、そのころは投資などとは無縁の生活をしていましたから、何ともいえませんが、今後、絶好のチャンスがめぐってきたときに、それに気付くかどうかが問われています。ファイナンシャル・リテラシーが試されるわけですね。
p.192 介護保険は、その仕組み上、必ず破綻すると予言しています。
p.205 では、障害者を積極的に公務員として雇うべきだという主張が展開されます。これまた一理ある意見です。
全体として、他の橘氏の著作物を読んでいる人には、物足りない感じがしただろうと思います。Part 1は、2003年に日経新聞日曜版に連載したものが元になっているそうです。たぶん、新聞掲載時に分量の制約があったのでしょうが、本としてまとめて読んでみると、どうも主張が充分展開されないうちに論述が終わってしまうような、やや中途半端な印象を受けました。企画段階から、柳の下の二匹目のドジョウを狙ったものだったのかもしれません。
乙としては、この本よりは橘氏の他の著作を読むべきだと思います。
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