上巻 http://otsu.seesaa.net/article/12849175.html に続いて、ようやく下巻が出ました。
200 ページ以上ある本にしては、さっと読めます。それもそのはずで、比較的大きな活字で、1ページが15行、1行が38字で組んであります。しかも、章ごとに1ページとって、章のタイトルだけのページをおきます。記述内容は小さな記事単位に分け、見出しが数ページごとに細かく入っています。そのたびに数行分のスペースがとられます。結果として、目次なんか、それだけで9ページにも及びます。本書には不要な図がたくさんあります。p.15, p.23, p.25, p.37, p.52, pp.54-55, p.67, p.73, p.125, p.129, p.135, p.155, p.159, p.167, pp.170-171, pp.180-181(p.163 と同じ), p.193, p.195, p.197, p.198, p.200 は、カットしてもいいでしょう。特に、p.25 なんかは、書いてあることは「預金封鎖はあるとしても10年以上先」だけですからね。これだけで1ページを使うというのはどういう心境でしょう。乙の印象としては、「無理矢理水増しして何とか1冊分に引き延ばした」といったところでしょうか。
本書の内容は、国家破綻の可能性を述べ、その対策として海外ファンドを買いなさいということです。1行で紹介が済んでしまいます。
浅井隆氏の今後の予測ですが、p.83 では、2007年後半から2008年に国家破産現象が出現するといいます。そして、2010-2012 年に国家破産に伴う大不況と混乱が始まるとしています。2025-2030 年には年金も政府もボロボロになるとのことです。今までの何冊かの浅井氏の本よりは、長期の予測をしています。こういう予測は当たらないでしょうね。今までの浅井氏の多数の著書が証明しています。
ファンドの運用ノウハウとして、浅井氏は p.128 で三つのポイントを挙げていますが、その第2は「コンピュータを使っていること」です。乙は、目を疑いました。出版年代が30年も違っているのかと思ったのです。この書き方では、コンピュータを使っていれば優れたファンドだといわんばかりで、乙は思わず笑ってしまいました。比喩的にいえば、浅井氏の書いたこの本だって、執筆時にコンピュータを(ワープロとして、かつ資料収集のための WWW の検索に)使い、製版時にもコンピュータを(製版システムとして)使い、出版社から流通に流すときにもコンピュータを使って流通管理や精算処理をしているから、きっといい本なんでしょう(笑)。
海外のファンドに投資するという考え方は、わからないでもありません。乙も自分自身で海外に投資していますから、同様に考える部分はあります。しかし、浅井氏が pp.188-202 で推薦する運用方法(これが本書の結論です)は、資産の大部分を数種類のヘッジファンドに差し向けるという考え方であり、乙は、このやり方はリスクが非常に大きいと思います。
pp.130-133 では銀行預金よりも安全なファンドがあると述べています。基準の取り方にもよりますが、こう簡単に断言してはいけないのは投資の常識だと思います。
具体的な運用方法として、p.192 では、余裕資金が400万円から900万円の人は、全額をマン社の 2XL に投入することを勧めています。数千万円の投資を考えている人に対しても、わずか数種類のファンドに集中的に資金を振り向けるように書いてあります。もしも本当にそうしていたら、万が一そのファンドが破綻でもした場合に大損害になります。こういう集中投資がどのように危険かを浅井氏が知らないなら、それはそれで問題ですし、浅井氏が知っていて勧めているなら、なおさら問題です。
乙も、マン社の AP 2XL に投資していますが、
http://otsu.seesaa.net/article/20801211.html
投資を決断するまでは、いろいろと調べ、考え、比較検討し、迷いました。結果的にこの金融商品を購入したという意味では、浅井氏の本を読んですぐ購入した場合と変わりませんが、乙の(調べ、迷った)経験は有意義だったと思っています。
こういう本1冊を読んでいきなり数百万円の資金をマン社に送金するような人はいないと思いますが、この本を素直に読むと、そうすることがベストだと読めます。このあたりは、浅井氏がもっとページ数を割いて、きちんと説明するべきところでしょう。それを省略して、海外ファンドの過去のすぐれた実績だけを示して、読者を海外ファンドに安易に勧誘している態度を見ると、他人事ながら(この本の読者のことを)心配してしまいます。
巻末では、海外投資をするために、おなじみの「自分年金クラブ」や「ロイヤル資産クラブ」への入会を勧誘しています。乙は、すでにブログに書いたように
http://otsu.seesaa.net/article/13495488.html
こういう会費の高いクラブへの勧誘は、問題だと思います。
乙としては、この本は1400円+税のお金を出すほどの価値はないと思います。
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