ピーター・リンチ氏は、マゼラン・ファンドのマネージャーでしたが、マゼランファンドを大きく成長させたことで知られる有名人です。1977年から1990年までで2000万ドルを140億ドルにしたと聞けば、誰でもびっくりするはずです。
この本は、全体として、リンチ氏がどういう考えで株の取引を行ってきたかを述べた本です。
全体を読んだ上での乙の感想は2点あります。
第1に、アメリカの話であり、この本に出てくるいろいろな銘柄について、乙は実感を持って知っているわけではないので、どうも話がわかりにくかったということです。アメリカ事情に通じている人なら、きっとおもしろかったでしょう。乙にはそんなにおもしろいと思えませんでした。
第2に、銘柄の発掘や調査など、ファンドの運営には膨大な手間をかけているんだということです。どういうところに注意してどんな考え方をして株の売買を行うか、この本でその一部は述べられていますが、個人投資家がリンチ氏のマネをすることは絶対にできません。ですから、この本は個人投資家には役に立ちません。株のプロが読む本だと言えるのではないでしょうか。
この本の各所で、10倍株(テンバガー)という言い方がでてきます。株はそんなにも大きく伸びるものなんですね。そういうのを事前に買っておけたら、何と幸せなことなんでしょう。乙も1回くらいは経験したいものです。しかし、それには、いい会社を見つけて、しかも超長期にわたってフォローしていくことが必要です。ただ時間が過ぎるのを待つだけではダメで、その間、会社がどうなっているかを定期的にチェックし続けなければなりません。ここが大変です。
この本の中から、乙がおもしろいと思った部分をいくつか抜き出しておきます。
p.6 大勝ち銘柄は、結果が出るまでに3年から10年以上かかっているとのこと。いやはや長いものですね。普通はなかなかこんなには保有しきれないように思います。
pp.15-16 ランチやディナーのスピーチで、聴衆に「あなたは長期投資家ですか」と尋ねると、全員がそうだと答えるそうです。デイ・トレーダーも含めてです。みんなそう思っているんですね。
p.30 プロのいうことに惑わされるな、ピーター・リンチのマネをするなとのことです。プロとアマは違うからというわけですが、それにしても、こういう言い方は強烈なショックです。リンチ氏の本を読む人は、リンチ氏のマネをしようと思って読むものでしょうに。
pp.71-72 大きなファンドになると、いろいろ制約があって、あまり儲けられないということです。そうはいいつつ、90億ドルの巨大マゼラン・ファンドは好成績を出しているのですから、いうこととしてきたことがずれています。
p.95 株で儲けるときに市場全体の予測をする必要はないとのことです。乙は意外でした。リンチ氏は、自分がこれだと思った会社には断固として投資する信念の人なんでしょうね。
p.273 株を保有し続ける人のほうが頻繁に売買を繰り返す人よりもはるかに優れているということです。これは、株の売買には手数料がかかるために、売買を繰り返したら確実に手数料分を失うからです。本書では、売買には1〜2%の手数料がかかるといっていて、今の日本のネット証券とはだいぶ違います。ネット証券では、手数料が 0.1% 以下になってしまいましたから、リンチ氏の主張は必ずしも当てはまらないように思います。
本書は、全体として、リンチ氏の経験を通して個別株投資の醍醐味を語る本ではありますが、それだけに、乙は(自分とはまったく違うということで)距離を感じてしまいました。
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