表紙に大きな文字で「勝率8割!」と書いてあります。タイトルとあわせて考えれば、この本で紹介されている銘柄を買えば、8割の確率で大化けすると読めます。こういう本は、内容の正しさについて(1年以上経ってから)ぜひ検証しなければなりません。
奥付には「※銘柄紹介ページのデータは2005年2月3日現在のものです。」と書いてあります。そこで、この日に株を買ったとして、その後の推移を見てみましょう。(本当は、本が書店に並ぶ日を基準にするべきなのでしょうが。)
本書に掲載されている木戸銘柄はその後どうなったでしょうか。2005年2月3日の株価を2割下回ったら損切りしたものとして見ていきます。×は損切りしたもの、△は今まで保有が継続しているもの、○は木戸氏の目標株価に届いたものです。
2802 味の素 1234円
△木戸氏の予想(p.84)=目標株価1800円以上
6807 日本航空電子工業 1001円
○木戸氏の予想(p.87)=目標株価1150円以上
6594 日本電産 12230円
○木戸氏の予想(p.91)=目標株価15000円以上
7122 近畿車輛 350円
×木戸氏の予想(p.94)=目標株価500円以上
2005.5 に 266 円まで下げた。
損切りせずにこれに耐えられれば、500円以上になった。
7404 昭和飛行機工業 780円
○木戸氏の予想(p.97)=目標株価1000円以上
5805 昭和電線電纜 142円
○木戸氏の予想(p.99)=目標株価230円以上
5996 新立川航空機 1867円
○木戸氏の予想(p.101)=目標株価3000円以上
6365 電業社機械製作所 4630円
△木戸氏の予想(p.104)=目標株価7000円以上
6294 オカダアイヨン 468円
○木戸氏の予想(p.107)=目標株価600円以上
6704 岩崎通信機 240円
○木戸氏の予想(p.111)=目標株価350円以上
6460 セガサミーホールディングス 6480円
△木戸氏の予想(p.114)=目標株価10000円以上
6386 扶桑レクセル 824円
○木戸氏の予想(p.145)=目標株価1000円以上
5816 オーナンバ 545円
○木戸氏の予想(p.148)=目標株価800円以上
9107 川崎汽船 713円
△木戸氏の予想(p.152)=目標株価1000円以上
2109 新三井製糖 306円
○木戸氏の予想(p.154)=目標株価500円以上
6366 千代田化工建設 859円
○木戸氏の予想(p.157)=目標株価1200円以上
6023 ダイハツディーゼル 267円
○木戸氏の予想(p.160)=目標株価550円以上
6945 富士通フロンテック 1555円
×木戸氏の予想(p.164)=目標株価2000円以上
1893 五洋建設 186円
○木戸氏の予想(p.168)=目標株価250円以上
3315 三井鉱山 424円
×木戸氏の予想(p.172)=目標株価500円以上
4028 石原産業 244円
×木戸氏の予想(p.176)=目標株価300円以上
ということで、13/21=62% の勝率です。半分を越えていますから、まあまあの成績といったところでしょうか。乙が事前に予想していたよりはあたっていました。2005年は後半に株価が全体に上昇しましたから、その影響だろうと思います。
この本の表紙にある勝率8割というのは結果的にウソでした。
では、なぜ木戸氏はこのようなウソをついたのか。未来のことだからテキトーに書いたといわれればそれまでですが、実は、本書の p.11 にその根拠が書いてあります。ちょっとそれを見てみましょう。以前、木戸氏が週刊現代で紹介した65銘柄中、2週間以内に高値を付けたのが29銘柄あったのだそうです。そこに勝率 83% と書いてあります。木戸氏のいう「勝率」は「株価の値上がり率」(しかも上昇したものだけを取り出して?)のことなんでしょうかね。変な計算です。普通は、勝率といえば、推薦した全銘柄中、何銘柄が上昇したかということですから、29/65=45% と計算するものです。
株価は上下に変動しますから、仮にランダムに上下するものと仮定すると、その後ある時点で上がっている銘柄が半分、下がっている銘柄が半分です。
また、ある日を基準にして、その後2週間までに高値を付けたものを数えれば、ランダムに上下すると仮定しても、大部分が該当することになります。(安値を付けたものも大部分のはずです。)
ちょっと確率を計算してみましょう。ある基準日から考えて、その後2週間では(土日を除いて)10日間の取引日があります。それぞれの終値が基準日の価格から上がっているか、下がっているかが確率 50% で起こるとしましょう。(「同じ」日もあるので、厳密にいえばこの仮定は成り立たないのですが、ここでは計算の簡略さのため、これを仮定します。)ここで、10日間のうち1日でも基準価格を越える確率はどれくらいあるでしょうか。それを求めるには、10日間にわたって安値が続いた場合の確率を求め、それを1(100%)から引けばいいのです。10日間連続して安値になる確率は (1/2)**10=0.00098=0.098% ですから、結果は 99.9% です。つまり、ランダムに個別銘柄を買った場合、2週間以内に高値を付ける確率は 99% 以上ということです。安値を付ける確率も同じです。
こう考えると、2週間以内に高値を付けたものが 45% というのは、いいかげんな予測を相当下回ったということであり、けっして威張れる数値ではありません。それどころか、実は、ありえない結果だと言えます。
この本では「2週間以内に高値を付ける」という短い説明しか書いてなかったので、乙は基準価格よりも高い価格になったことを「高値を付けた」と考えて計算しました。この定義が違っているのかもしれません。もう少しきちんと状況を説明してくれれば、確率の計算も正しく行えるかもしれませんが、……。
ちなみに、この本では、2005年末の日経平均株価2万円の予測をしています。見事に外れたわけですが、このことは、すでに乙のブログで述べました。
http://otsu.seesaa.net/article/20346672.html
以上のような検討から、木戸氏の言説の信頼性が低いことが明らかになりました。
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