内容を一言で言えば、株式投資にはインデックス・ファンドを買うのが一番良いということです。マルキール氏の本で提案されてインデックス・ファンドが実際に作られたというのも興味深いことでした。
原著はミリオンセラーだそうで、帯には「全米No.1テキスト!」と書いてあります。副題は「株式投資の不滅の真理」となっています。しかし、本当は、p.23 にあるように「ゆっくりと、しかし確実に金持ちになる本」という副題がむいていると思います。
本書では、テクニカル分析やファンダメンタル分析をはじめ、株式投資のいろいろな考え方が登場しますが、それらがどれも「市場平均」よりも継続的に優れているわけではないということで、結論としてインデックス・ファンドのススメということになるわけです。
p.97 では、新規公開株を買うときはよくよく注意するべきだと書いてあります。乙は、「へえ」と思いました。IPO のブームがあるように思いますが、全体としてはあまり儲からないのでしょうね。
pp.206-207 には「フィルター法」というテクニカル手法が出てきます。直近の下値からたとえば5%以上上がったら、上昇トレンドにあるということで買い、高値から5%下がった時点で売るというような手法です。「損切り」というアイディアも同じ考え方をしています。しかし、この手法はバイ・アンド・ホールド戦略のパフォーマンスを継続的に上回ることはないということで、否定されています。ということは、損切りについても否定されているわけです。乙は不思議な気がしました。損切りは常識だと思っていましたが、そうではないのですね。
pp.232-233 では、バイ・アンド・ホールド戦略は、税金面で有利だということが書いてあります。確かに、株を売ると利益が出ていれば税金が取られますが、ずっと保持していれば税金がかからないわけですから、そのほうが望ましいということになります。長期保有を目指したいものです。
p.272 では、効率的市場理論が出て来ますが、それによれば、ファンダメンタル分析もインデックス・ファンドを上回れないとのことです。これには、乙も驚きました。
p.341 では、期初の株価収益率(PER)と実現総リターンの関係を調べ、株安の場合はリターンが高く、株高の場合はリターンが低いという結果を示しています。だから、低PERの銘柄に投資するほうがリターンが高くなるということになります。pp.349-351 でも同様の話が出て来ます。p.350 の図4は、これをはっきり示しています。このことは、効率的市場理論と真っ向からぶつかります。しかし、マルキール氏は、p.341 でこういう実証研究が効率的市場理論とまったく整合的かもしれないと述べています。乙にはここが理解できませんでした。低PERの銘柄のリターンが平均よりも高ければ、市場平均に投資するよりは、PERの値で全銘柄を二分し、低PERのほうの銘柄に分散投資すればいいはずです。
pp.342-346 では、「逆張り」戦略が出てきます。「リターン・リバーサル」現象というのだそうですが、過去3年間でひどい結果に終わった銘柄を買えば、次の3年間は平均以上のリターンになるという考え方です。予測可能パターンのうちもっとも信頼性が高いものとしていますが、p.345 では、マルキール氏はこれに対しても否定しています。
p.351 では、低PBRの銘柄の投資リターンは高くなるという他の人の研究を紹介しています。しかし、p.352 では、バリュー株ファンドがグロース株ファンドを上回ったのは例外的な期間における現象だとして否定しています。しかし、乙は、80年にわたる傾向を基準にして、30年の現象を「例外」とする見方は、まずいのではないかと思います。数年の現象ならば「例外」扱いでもいいですが、30年も続くものは、そういう説明では納得できないでしょう。
pp.356-360 では、生存者バイアスについて述べています。さまざまなファンドがありますが、失敗したファンドは生き延びられないために、残ったファンドの平均を見ると一見好成績を示しているように見えるということです。このことから、積極運用のファンドは市場平均を上回れないとしています。
結論は単純ですが、なかなか奥行きのあることを言っていることになります。マルキール氏の言説を信じれば、すべてのアクティブ・ファンドは否定されてしまうし、個人投資家が個別銘柄の株に投資することも否定されてしまいます。う〜む。乙は発想の転換を迫られた気がしました。
なお、p.409 の投資家の年齢別のアセット・ミックス(アセット・アロケーションのこと)というのはおもしろかったです。
本書は、内容的にはお勧めできる本ですが、読むのにある程度時間がかかりますので、その覚悟をして読みましょう。
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