2006年08月16日

山崎元(2006.4)『「投資バカ」につける薬』講談社

 乙が読んだ本です。とても痛快な本です。
 しかし、乙は必ずしも賛成できないところがあり、そこを中心に意見を述べます。
 p.40 から、投資信託は手数料が高いから買うべきでないという話が出て来ます。ETF も銘柄変更で損をします。その代わりに、日本株では数銘柄に分散投資するのがよいとのことです。山崎氏は、投信の手数料を 0.5% くらいにできるとしています(p.234)。乙としても、もしも、そういうのがあったら、実際に投資してみたいと思いますが、現状では存在しません。では、どうしたらいいのでしょうか。待っていても、これから誕生するとは思えません。これからできるくらいなら、すでに始まっているでしょう。それとも、山崎氏が独自のファンドを立ち上げますか。それが「手数料を 0.5% にできる」と断言する山崎氏の責任の取り方だと思います。
 ところで、乙が投資信託を買っている中心部分は、日本株以外の運用を考える場合です。外国株などは、自分で情報を集めるのにも苦労しますし、自分で直接買うのは(うまく判断できずに)危険すぎるし、取引を開始するための手間などが無視できないように思います。どうやればコストを下げられるかも難しい問題ですし、株を売って退却するときの判断はさらにむずかしくなるでしょう。したがって、投信に頼るのがよいと思っています。海外のファンドを買えば、自分でいろいろ調べなくて済むということにメリットがあることになります。
 p.143 では、山崎氏は、外貨建て資産への投資はいずれも手数料が高く、適当なものがないから国際分散投資をする必要はないとしています。あ、なるほど。乙の疑問(日本株以外の投資信託をどう考えるか)に対する回答が書いてありました。一切手を出さないというわけです。それはそれで一つの考え方ですが、円建て資産だけで運用することのリスクを考えないでいいのかどうか、乙は疑問に思います。
 p.142 日経平均のパッシブファンドの場合、銘柄入れ替えで投資家は損をするわけですが、それが数十ベイシス(0.数%)に達するということです。かなり大きな割合で、無視できません。そして、TOPIX でも、同様の問題があるというわけですが、さて、それはどれくらいの影響を与えるものなんでしょうか。TOPIX は、日経平均よりも基準となる会社の数がはるかに大きいのですから、パッシブファンドの損失はそれだけ少ないように思いますが、それがどれくらいか示してほしかったと思います。
 ちなみに、日経新聞の8月15日夕刊に東証2部から東証1部に指定が変わる企業の株価の話が出ていました。これらの企業は、インデックスファンドの買いが入るために株価が上昇しやすいとのことですが、記事自体を読むと、あまり大きな上昇ではなさそうです。2005年9月1日に指定日を迎えた13社の株価を8月1日と9月末で比べると、対TOPIX 以上に上昇したのは半数しかないとか、1部指定発表日前後に上昇する例と、指定日の月末にかけて上昇する例がある一方、株価上昇が見られないケースもあるということでは、個人投資家がこれを利用して儲けることは無理でしょう。大規模な運用をする場合は、少しはいい成績になりそうですが。
 というわけで、TOPIX インデックスファンドに投資する場合の投資家の損の程度について知りたいと思いました。
 pp.176-184では、ドルコスト平均法に対する批判が述べられています。世間一般の常識に反するかもしれませんが、乙も同感であり、すでにこのことはブログに書きました。
http://otsu.seesaa.net/article/22320551.html
 p.188 から、個人向けヘッジファンドに対する批判が書いてあります。成功報酬型の手数料は、実は高いのだというわけです。乙は、いくつかのヘッジファンドに投資していますので、ここが本書で一番おもしろかったところです。
 ヘッジファンドの定義は、p.190 によると、
1. オフショア籍である
2. デリバティブを活用し、絶対的な利益を追求する
3. 私募投信である
4. 成功報酬制である
5. レバレッジを活用している
の5点です。
 さて、p.192 では、「成功報酬型なら、儲からなかった場合は運用報酬を払う必要がないからいいかもしれない」という考えを批判しています。しかし、乙は、ちょっと考え方が違うと思います。「儲かった場合に、2割の成功報酬を払うのは特に高いと思わない」ということです。
 p.195 では、成功報酬制度は、値上がり分に比例した額の報酬を受け取ることなので、コールオプションと同じだと説かれます。いわれてはっとしましたが、その通りです。そして、p.197 でコールオプションの価値を計算し、リスクを年率20%とすると、コールオプションの価値は8%程度になるので、20%の成功報酬の価値は、1.6% になるとしています。この考え方は大変おもしろかったです。リスクを高くすればするほど、コールオプションの価値は上がりますから、ファンドマネージャーはハイリスクな運用をするということになります。
 以上のような検討を通じて、p.199 では、成功報酬型のヘッジファンドを合法的金融詐欺と断じています。
 成功報酬型のファンドの手数料が相対的に高くなるのは当然ですが、しかし、なお、多くのヘッジファンドはかなりの高利回りを実現してきています。これが単なる偶然か、理由のあることなのかが乙にはわかりません。山崎氏の見方では、これは単なる偶然だということになるでしょう。しかし、実際に何年も高利回りを実現しているという過去の実績を見ると、乙は、単なる偶然ではなく、何かもっともな理由があるのではないか、したがって、こういうファンドに投資していれば、将来的に高利回りが実現できるのではないかと思えます。
 乙の見込みが正しいか間違っているかは、実際に投資して、経験してみるのが一番でしょう。その意味で、ヘッジファンドに運用資産の大部分を預けるような危険なことをせずに、分散投資の一部に組み込むというようなことで考えればいいのではないでしょうか。
 p.210 では、株式投資に関して「売値を事前に決めておくルール」が有害であることを述べています。いわゆる「損切り=ロスカット」も有害とのことです。マルキール氏の著書
http://otsu.seesaa.net/article/21985368.html
でも書いてあったことですが、これが常識なんですね。

 ところで、乙は、本書のタイトルが気になりました。「投資バカ」というのは、山崎氏によれば、「投資について知らない人」ではなくて、「投資に関心があり、意識が高いけれども、実はバカを見ている人」のことです。間違った投資をしている人を山崎氏は「投資バカ」と呼ぶのですが、投資に「間違った投資」があるのでしょうか。乙はないと思います。乙は、株のデイトレードを儲からないやり方だと見て、自分ではしません。同様の理由で、宝くじも買いませんし、パチンコもやりません。しかし、乙は、それらをしている人を「バカ」と呼ぶことはしません。それは、その人なりの考え方・やり方なのであって、個人は(法を犯さないなどのルールに従う限り)何をやってもいいのではないでしょうか。山崎氏は、そういう人たちを「バカ」と呼ぶことで、実は呼んでいる自分の品格を下げていると思います。このタイトルのつけ方は(山崎氏にとって)損だと思います。そういいたい気持はよくわかるのですが。


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posted by 乙 at 08:37| Comment(1) | TrackBack(1) | 投資関連本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
始めまして。カラスカルと申します。ファンドのAP-2XLを検索した際にこちらのブログを知りました。ファンドに関してはまったくの無知で少しでも勉強したいと思いこれからも拝見させて頂きたいと思います。日本の財政悪化、国家破綻に関する書籍に資産防衛の手段として、海外ファンドAP-2XLが取上げられていました。私は現在いわゆるデイトレードで生計をたてています。ブログも開設してますので乙川乙彦さんのブログを勝手にリンクさせて頂いてますが、もしご迷惑ならご一報下さい。ブログからははずして訪問するようにします。ではお仕事がんばって下さい。
Posted by カラスカル at 2006年08月16日 17:24
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『「投資バカ」につける薬』
Excerpt: 『「投資バカ」につける薬』著者の山崎元(やまざき・はじめ)さんは1958年北海道生まれ。東京大学経済学部を卒業後、三菱商事に入社。以後、信託銀行・証券会社・投資運用会社・シンクタンクなど12回の転職を..
Weblog: 書評ブログ
Tracked: 2006-09-17 21:59
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