とてもまじめな本で、わかりやすく、資産運用をどんなふうに行うかを述べた本です。
乙は、北村氏の前著2点
http://otsu.seesaa.net/article/22245739.html
http://otsu.seesaa.net/article/22911321.html
を読んだ後だったので、世界の潮流の中で、どうすれば高いリターンが得られるかを述べた本だと思って買いました。読んでみると、大違いでした。真っ当な資産運用のあり方を述べたものだったからです。
第1章は、日本が格差の大きい社会になりつつあることを説きます。
第2章は、そういう格差社会の中で資産運用をどう考えるかを述べます。現在の60歳未満の人は年金があてにできないから資産運用が必要だというわけです。
第3章は、年金は「国営・投資ファンド」だと位置づけて、そのアセット・アロケーションをどう考えたらいいかを説明します。年金の投資先は意外と債券が多いんですね。
第4章は「負けない資産運用」を説くところで、乙が一番おもしろく読んだところです。ポイントが7つの智恵という形にまとめてあり、いずれもわかりやすいと思います。
第1の智恵が、「トレーディング(短期売買)」から「インベストメント(長期投資)」へということです。インベストメント自体を「長期投資」とするところもおもしろい見方です。(本書を読めば、その見方に納得します。)「長期」ということで、何年くらいを考えるのでしょうか。p.133 によれば25年です。乙は15年しか余裕がないので、その意味では長期投資ができないということになるかもしれません。(実は、15年経った後も死ぬまで投資を継続するのですが。)その意味で、この本は20代から30代の人に読んでもらいたい本ということになります。
第2の智恵が、「アルファ戦略」(アクティブ運用)と「ベータ戦略」(パッシブ運用)です。平均的投資家は市場の平均には勝てないという話です。これに関して、北村氏は「マーケットの平均を上回るようなリターンを継続的に上げ続けることはむずかしいが、チャンスはある」という見解を示しています。穏当な見方です。パッシブ運用を中心にするのは当然でしょう。
第3の智恵が、複利効果と時間分散です。普通の市民でもプロに勝てるのは投資の時間が長いからだと説きます。
第4の智恵が、ポートフォリオ理論です。乙は、p.188 からの自前「株式ファンド」の作り方の話がおもしろかったです。アクティブ運用で株に投資するときの正しいやり方を説明しています。このやり方で分散投資になっています。納得できます。
第5の智恵が、持ち家プレミアムです。p.195 では、同じ立地で同じ作りの賃貸用物件ならば4000万円で買えるのに、持ち家用物件になると5000万円で売られているというわけです。この差1000万円が持ち家プレミアムです。自宅を所有することで安心感はありますが、それが果たして1000万円の価値があるでしょうか。こういう観点は乙には大変新鮮に響きました。p.202 には、住宅ローンがなければ、お金が貯まるまでは賃貸に住むのが当然で、しかも住宅ローンという制度は1962年以降に導入されたものにすぎないということも書いてあり、若い人には、(収入が多い人は問題ないのですが)住宅ローンの恐さをしっかり知ってほしいと思いました。ただし、住宅ローンの記述は橘玲氏の本
http://otsu.seesaa.net/article/20748838.html
にも書いてあったことです。
第6の智恵が、国際分散投資です。北村氏は MSCI-KOKUSAI に追随するインデックスファンドを勧めています。また、BRICs 投資でも、分散投資を勧めるべきだとし、特定の国に投資するよりは多くのエマージング・マーケットに投資する商品を選ぶべきだと述べます。いずれももっともな話です。
第7の智恵が、運用ポリシーの一貫性とリバランスです。乙は、本書でリバランスの意味をきちんと理解できたと思います。
全体を読んで、すばらしい本だと思いました。乙は、今までの自分勝手な投資方針を順次改めようかと思うようになりました。ヘッジファンドや BRICs 投資も(ハイリターンということで)いいけれど、15年の投資を成功させるためには、やはりそれなりの取り組みが必要だと思います。乙の今までのやり方をすぐに変える必要はありません。せっかく投資したものをすぐに解約するのは、手数料がかかったりして、かえって利益が少なくなります。しかし、乙がこれから投資する金融商品を選ぶときに、今までとはやや方針を変えようと思いますし、今後は、運用方針を見直して、ポートフォリオをだんだん望ましい方向に変えていこうと思いました。
本書は、特に若い人にお勧めできる良書だと思います。
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私の著書『貧乏人のデイトレ 金持ちのインベストメント』について、詳細な書評をBlogに載せていただき、ありがとうございました。
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乙は、この本だけでなく、自分の読んだ本をいろいろ取り上げて、ブログであれこれ言ってきましたが、その著者自身もそれらの記事を読んでいるわけですね。身が引き締まる思いがします。
ブログ内のそれぞれの記事は、乙流の読み方の結果でしかなくて、シロートの勝手な言いぐさでしかありませんが、自分ではウソは言っていないつもりです。しかし、著者から見れば乙の間違いもあることでしょう。そういうところを是非ご指摘いただければと思います。