帯には「一度読んだら絶対に薦めたくなる良書である」と書いてあります。しかし、乙は、まったく反対の意見を持ちました。まともな投資家ならば、この本を読んではいけないと思います。
本書は、投機のルールとして12の公理を述べ、さらに16の副公理を示しています。その全体が、まさに「投機」であり、いわば「ギャンブルで一発あてたら大儲け」的な態度で書かれています。ある意味で正しいとも言えますが、じっくり資産を増やしていこうという「投資」の考え方とは相容れないもので、信じて実行すると、その人が破産するかもしれないという意味で、危険な方法でもあります。
著者のギュンター氏の父親はスイスの銀行家で、チューリッヒで生まれ育ったのだそうです。そして、父親の墓石には、「彼は賭け、そして勝った」とあるそうです。こうして息子に受け継がれた投機のルールが「チューリッヒの公理」と呼ばれるようになり、本書の題名(ただし原題)となったというわけです。
「賭けて勝った」人は、それが正しい態度だったと思うでしょう。しかし、世の中には賭けて負ける人もいるわけで、実はそちらのほうがはるかに多いというのもまた事実です。ギャンブルの胴元が営業を続けられるのも、そういう人がたくさんいるからです。
たとえば、どんなことが書いてあるか、見てみましょう。
副公理2は「分散投資の誘惑に負けないこと」です。分散投資はしてはいけないと説きます。あるところに集中するからこそ大きく儲けられるという考え方です。公理2は、「常に早すぎるほど早く利食え」です。公理3は「船が沈み始めたら祈るな。飛び込め」です。損切りのすすめです。あるいは、副公理16は、「長期投資を避けよ」です。投機家は、世の中に敏感になり、いろいろな機会に機敏に動くことをすすめています。
本書には、正しいことも書いてあるのですが、一方では、ギャンブルとしての投機の指南書になっているところがあります。それでうまくいったといういろいろな例が出てきます。それらは確かに現実に起こったことでしょうが、問題は、そういうことがどれくらいの確率で起こることなのかということです。
「公理」というと、絶対に正しいと多くの人が認めていることのようなニュアンスがありますが、本書で説かれるものは、全部が正しいということではありません。注意したほうがいい本であり、なるべくならば、読まずにすませたほうがいいのではないかと思います。
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