野口氏の議論は、いつもおもしろいと感じていますので、この本も読む前から楽しみでした。
一番おもしろかったのは第2章「電力消費抑制に価格メカニズムの活用を」でした。震災後の電力不足を乗り切るためには、計画停電よりも、電気料金を上げるほうがいいという議論です。本書では、どれくらい上げるかを具体的に明記しています。工場などで使う電力の場合、超過電力に対して、1.5 倍にするということです。まあ、そんなものかもしれません。
一方、家庭の電気料金では、40A 以上の基本料金を5倍程度に値上げするということです。30A までは今まで通りということで、基本料金は 819 円ですが、60A だと、今の 1638 円が 8190 円になるという話です。これは大きな違いです。乙の自宅では、10kVA の契約ですので、今の基本料金 2,730 円が 13,650 円になるということです。どうでしょうか。契約アンペアを減らすでしょうか。少しは減らすかもしれません。このあたり、具体的な値上げ幅が書かれていないと、机上の空論になってしまいますが、金額がわかれば、自分の家ではどうするか、考えることができます。
その他にも、興味深い議論がたくさんありました。
p.131 では、復興財源を得るために、法人税を上げるのはよくないとしています。日本の企業は7割以上が赤字ですから、法人税(率)を上げても、まったく税収は増えないというわけです。むしろ、各種の租税特別措置をなくすことが重要だと説きます。目からウロコでした。
p.133 では、法人税はコストでないと説きます。乙は法人税は企業にとってはコストだと思っていたので、これまた目からウロコでした。法人税は利益にかかるものなので、コストではないわけです。
p.224 では、新興国は販売先ではなく、投資先ととらえるべきだとしています。つまり、国内の製造業などは海外移転するべきで、それがすなわち「投資」ということになります。言い替えれば、国内は空洞化でよいというわけです。
ところで、本書中で乙がよくわからなかったところもあります。pp.29-30 ですが、大震災からの復興のために復興国債を発行する場合、負担を将来に先送りできないのだそうです。国債を発行するとき、その時点でお金を集める形になるので、その時点の人々が負担していることになり、償還時は、国債を保有している人が償還金を受け取る、つまり、納税者から国債保有者に所得が移転するだけで、国全体としては使える資源が減少するわけではないということです。
復興国債も、普通の国債も、特に違いはないわけですから、日本の膨大な国債も、今の人が負担していることになり、将来の人が負担するわけではないということになりそうです。乙は、何となく、子供や赤ちゃんやこれから生まれてくる人々が膨大な借金を返す形になるように思っていました。
国債が、(未来の人からの借金ではなく)今の人からの借金だと考えれば、今の日本が持っているお金の全体以上に国債を発行することはできないことになります。でも、実際は、国債の発行はできてしまいそうに思えます。インフレで国債の価値が低くなるので、ある程度以上の国債の発行は無意味ということになるのでしょうか。
国債を買った人は、その時点で自分の金を国家に提供したことになります。それはわかります。しかし、国債の買い手は、その国債を償還までずっと保有し続けます。そして、国債の償還時に現金を入手することになります。国債の買い手が国債をずっと保有するということは、つまりは負担(国の借金)を将来に引きずっているのではないでしょうか。
このあたり、どうにも理解できませんでした。
ラベル:野口悠紀雄
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日本国民は日本国の果実を享受しているわけですし、突然重税を負う可能性もあるわけですから。
これが国債を国内で消化できずに海外の人が買うようになるとまったく状況が変わってきます。
★著者がここでいう「コスト」とはどんな定義なのでしょうか。財務会計や税務の世界では税金はコスト(=費用・原価または損金)ではありません。しかしキャッシュフロー上では出金という概念には当てはまると考えられます。また法人の業績説明においても「税金費用等」という表現が使われることが少なくありません。さらには個人の視点でみれば出金=コスト、すなわち個人が支払う税金はコストであると捉えた方が良いです。サラリーマンは源泉徴収で税金が天引きされるため、このコスト意識が薄いのでしょうが、自営業で(トーゴーサンの問題はあるものの)それなりの利益を上げている人は「税金払っている感」をひしひしと感じているはずです。税金=利益にかかってくるコスト(変動費ともとらえてよい)です。
本書を読んだのがしばらく前なので、詳細は記憶していませんが、特に定義などは書いていなかったように思います。
「法人税」の議論ですから、個人の視点はないものと思います。
乙は、企業会計などとは無縁の人間なものですから、コストについても知らなかったというわけです。