全体としては、日本の税制はゆがんでいて、そのために投資家は損をしている、それを改革するには、シンプルな税制にして税率を下げるべきであり、そうしないと日本が沈没してしまうという趣旨の本です。
本書では、投資をめぐる日本の税制がいかに不公平で理不尽なものであるかが説かれます。乙は、なるほどと思いながら読みました。しかし、安間氏が主張するようなシンプルな税制にはならないでしょう。日本の政治には、何といっても前例主義が重くのしかかっています。もしも、革命的な税制に改めるとしたら、それまでの税制には大きな欠点があったと政府自身が認めるようなことになります。それはできない相談でしょう。ということで、個人投資家としては、税制の不備をよく知り、それがゆがんでいるとしても、その中で最適な行動を取るようにするべきであるということになります。
p.5 資産運用では、取引コストと税金が高いので、それをなるべく避けるようにするべきだという一般論が示されます。それを具体的に記述したのが本書です。
pp.28-29 売買回転率を上げると税金が高くなり、投資リターンが下がるというグラフが出てきます。グラフの意味は理解できますが、どういう計算をするとこのグラフになるのか、乙には理解できませんでした。
pp.70-72 「買ったら税金、負けたら救済なし」というのが日本の税制の基本方針だと説かれます。だから、個人投資家は(平均的に見て)税金が高くなり、だからリスクを取っても意味がなく、だから預貯金での運用が多くなるのだということです。日本の現状をとてもよく説明しています。
pp.91-98 EBや転換社債などの複雑な金融商品をエクイティとデットの二つの概念でわかりやすく説明しています。簡単に結論をいえば、複雑な金融商品は恐いなあということですね。
pp.132-142 「個人投資家はオーバーパーを買うな!」と説きます。オーバーパーというのは、債券で今の価格が償還価格を上回っているものです。税金を考慮すると、買ったら損するということです。乙は直観的にそう思っていましたが、それをきちんと説明してもらった気がします。
p.162 株の配当は損だと説きます。これも、株の仕組みを知る上で大事な視点だと思いました。個人投資家は、つい、配当が高い株を買うとよさそうな気がしますが、それは間違いなのですね。
pp.216-221 中途半端なアクティブ運用のファンドは、今後は、パッシブ運用とオルタナティブ投資に分かれていくだろうという見通しを述べています。大変おもしろい考え方です。乙が何となく感じていた方向性をずばりと指摘されたような気がしました。
やや古い本ですが、勉強になりました。
「ホントは教えたくない」の主語は何でしょうか。この本を買ったとき(読む前)は「著者」だと思いましたが、実は「日本政府」でしょうね。そう思って読むと全体が理解できそうです。
2016.6.6 追記
この本の改訂版が出ました。それを読んだ話を
http://otsu.seesaa.net/article/438675780.html
に書きました。
よろしければご参照ください。
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