まえがきが「本書は危険なパンドラの箱です」ということばで始まるので、どんな内容なのだろうと期待して買ってしまいました。
本書は、投資のリスク(といってもボラティリティという意味ではなく、「危険性」のほうが近いですが)について語られます。いろいろな詐欺事件などが起こるけれども、それは投資家がころりと騙されるからだというわけで、投資家にいろいろな危険性を知らせることをねらったという本です。
では、具体的にどんな話がされるかというと、「海外には収益率の高いファンドが多い」「金利が上がると、持っている債券の価値が下がって生保は破綻する」「元本保証で、高利回り」「預金封鎖に備えて、外貨・不動産・株・金を買おう」などというのは、間違いだというわけです。
乙が一読した感想では、「パンドラの箱」というほどのことではなさそうです。大部分は、常識的なわかりやすい話のように思いました。
いくつか、おもしろいと思ったところを書きます。
p.67 安間氏は「長期の投資家はボラティリティを気にせず、高収益をねらうべし」と説きます。長期で投資できる投資家は、短期的な価格変動をそれほど恐れることはないから、リターンが高いと思われる資産に投資を続ければよいというわけです。逆に、投資期間が限られている投資家は価格変動を気にしなければならず、短期であればリスクを取らないようにするべきだというわけです。これはこれで一つの考え方ですが、問題は、個人投資家が自分の投資スタンスをきちんと把握できるかということです。乙は15年の投資を考えていますが、これは長期でしょうか。安間氏の考え方では、長期というには短すぎるでしょう。機関投資家の場合は、無限に長い期間を投資に充てることがありますから、まさにそういうのが長期投資家というべきです。逆にいうと、個人投資家は、真の意味の長期投資家にはなれず(人間としての寿命があるから)、価格変動は恐れなければならないということになりそうです。
p.128 公務員は、収入が安定しているから、リスクが高い投資ができるということです。逆にいうと、収入が不安定である人ほど安全な資産を積み上げておくべきだということになります。乙は「ふ〜ん」と思いました。会計学的にはそれは正しいでしょう。指摘されるとなるほどと思いますが、普通はそういう発想はしないのではないかと思います。安間氏の着眼点のユニークさを感じました。
p.137 機関投資家はベンチマークを上回ることを目指す相対収益志向、個人投資家は投資元本を上回ることを目指す絶対収益志向だと説きます。なぜかというと、機関投資家には、意識しなければならない負債があるからで、個人投資家は負債と切り離した余剰資金で投資しているか、負債があっても負債と資産のミスマッチを気にしないからだというわけです。乙は個人投資家として、相対収益の考え方が採用されていることが今ひとつピンときませんでしたが、本書を読んで、納得しました。
p.209 では、預金封鎖について、そんなことを気にして対策を立てるよりも、究極的には日本を立て直したほうが早くて確実だと説きます。穏当な見方でしょう。乙もこういう考え方がいいだろうと思っています。
本書は、記述がやや抽象的になっているように感じました。わかりやすい本で、読んで損はないともいえますが、必読書というほどオススメではないでしょう。
安間氏のサイトを訪問するのもおもしろいかもしれません。
http://www.wildinvestors.com/
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