最初に読んだのはずいぶん前なのですが、ふと思い起こして、再度読んでみました。
実際に読んだのは三版ですが、初版からの追加の記述がいくつかあり、著者たちの良心を感じました。ただし、さすがに現在の目から見れば古くなった記述が目につきます。
本書の趣旨は、1998年の金融ビッグバンによって、個人投資家はどう影響を受けるのかを明らかにし、どのように投資をしたらいいかを考えるというものです。
しかし、調べはじめると、実は衝撃の事実が明らかになります。数十万円からせいぜい200-300万円しか金融資産を持っていない人は、金融市場では「ゴミ」と呼ばれ、まともに相手にされないということです。そこで、著者たちは、自力でオフショアに口座を作ることになります。
この経験の過程で、いろいろ調べた資産運用法の問題点や税制の問題点などを述べ、オフショア投資がいいという結論に到る道筋を克明に描いています。本書の記述は、かなり冗長に感じるところもありますが、初めて投資をするような人にはこういう本がむいているでしょう。
本書は、PART 1 (pp.18-75) 基礎知識編、PART 2 (pp.78-122) 外貨預金編、PART 3 (pp.124-172) 外債編、PART 4 (pp.174-208) 投資信託編、PART 5 (pp.210-268) 海外預金編に分かれています。
pp.10-15 のプロローグは、ショッキングな内容です。ビッグバンによって、少額の投資家は(金融機関にとってコストがかかりすぎるから)切り捨てられ、損をするということが述べられます。これだけで、本書を読もうという気になります。
pp.26-30 なぜ日本の証券会社系列の(子会社の)投資信託がいい成績を残せないかが説明されます。乙は納得しました。この話は p.176 でも繰り返されます。
p.38 株も短期売買よりは長期保有が有利だといいます。売買のたびに証券会社に手数料を取られるからです。それはわかりますが、最近のように、ネット取引によって売買手数料が非常に低額になってしまった場合でもこの理屈が成り立つのかどうか、知りたいところです。
pp.39-40 投資信託は国内のファンドよりも海外のファンドが有利であるといいます。それはファンドマネージャーの給与体系の違いが原因だということです。最近は、国内のファンドでも成功報酬制でファンドマネージャーに報いようとするところが出てきていますから、日本も変わりつつあるといったところでしょうか。
p.79 シティバンクには支店がないということです。逆に、日本の銀行は支店中心主義でオカシイということになります。乙はシティバンクに口座を持っていませんが、なるほどと思いました。日本の銀行の体質の古さを見事についています、
p.84 シティバンクのテレフォン・バンキングは24時間営業とのことです。乙は、新生銀行で同様の体験をしました。深夜に問い合わせの電話をしたところ、ごく普通に応対されたのです。こういうのに比べると、日本の他の銀行はどうしようもないと思えます。
p.85 銀行はコンビニと同じようなものだということです。そうです。コンビニには ATM があり、24時間やっているではありませんか。わざわざ銀行の支店に出かけていってお金をおろすよりも、自宅近くのコンビニでお金をおろすほうがはるかに便利です。(乙は、自分の金をおろすときにコンビニの ATM を使うと手数料を取る銀行が多いことにも憤慨しています。新生銀行はかかりませんが。)このままでは、銀行はコンビニに負けます。
p.152 外債は、口座管理料を取るが、それは不当だとのことです。そして、外債の売買には為替レートの疑惑もあるとのことです。本当に公表されている為替レートが用いられているのかということです。う〜ん。そんなことがあるんですか。
pp.204-208 米ドルMMF は優れものであると説きます。最もシンプルで優れた海外ファンドとのことです。乙も注目しています。
pp.214-222 海外預金の利息には課税できない(利子収入を申告せずに脱税してもそれを税務署が追求することはない)という話です。ここまで書いてしまっていいのでしょうか。事実だとは思いますが。
p.243 オフショアに会社を作るとトクだということです。しかし、p.247 で述べるように、個人投資家には不要だとのことです。
読み終わってから、乙は、はじめて『地球の歩き方』に出会ったときのショックのようなものを本書に感じました。パックツアーで経験する海外旅行もいいけれど、自分で自由に作る個人旅行もいいものです。安くいけます。いろいろな経験ができます。しかし、個人旅行には危険がいっぱいで、できれば具体的に書かれた信頼できるガイドブックがほしいと思います。そういう場合に役立つガイドブックが本来の意味でのガイドブックなのでしょう。資産運用への旅にはいろいろなスタイルがあります。あまりお金のない人は、ぜひ優れたガイドブックを手に、余計な費用のかからないやり方を採用するべきです。それが本書です。
乙は、自分をゴミ投資家だと思っていましたが、p.11 に出てくる定義を考慮すると、ゴミ投資家にはあたらないので、個人投資家と自称してもいいかなと思うようになりました。
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