個人投資家は大まかな投資方針だけ決めて、あとはプロに「投資一任」とするものです。プロに任せるという意味では投資信託に通じるものがありますが、投資信託は多くの人から少額の資金を集めて合同運用するイメージであるのに対し、ラップ口座は、個人が数千万円以上出して、個人ごとの希望を聞きながら(個人別に資産を管理しながら)プロが運用するというものです。
価格.com
http://kakaku.com/article/money/premium/p2.htm
によると、現在は次のようなものがあるそうです。
証券会社 サービス名 最低契約金額
野村証券 野村SMA 3億円以上1000万円単位
三菱UFJ証券 プライムアカウント 1億円以上1000万円単位
大和証券 大和SMA 5000万円以上500万円単位
新光証券 Long AP 2000万円以上100万円単位
日興コーディアル証券 日興SMA 1000万円から
日産証券 ラップ口座 500万円以上1万円単位
上のリストでは、最低契約金額順に並べ直しましたが、野村證券の3億円と日産証券の500万円ではだいぶ性格が違ってくるでしょうね。投資する人も違うでしょうし、方針や考え方も違うでしょう。
さて、最近の台風の目は野村證券でしょう。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/reuters/20060929/110863/
http://www.sankei.co.jp/news/060929/kei019.htm
http://wakaru.biz/000058.html
などが伝えるように、野村證券は10月から最低契約金額を1000万円とするとのことです。
さらに、銀行も参入をねらっています。
http://www.business-i.jp/news/kinyu-page/news/200609290026a.nwc
によると、東京都民銀行も10月から参入して、新光証券に取り次ぐそうです。また、5月からみずほ銀、三菱UFJ信託銀行が銀行として初めて取り扱いを開始したようです。「最低預かり額はみずほ銀が2000万円、三菱UFJ信託が3000万円。一方、三井住友銀行は07年3月末までに大和証券、SMBCフレンド証券と提携して参入する。最低預かり額はそれぞれ10億円、2000万円に設定する。各行がラップ口座に参入するのは、個人金融資産が預貯金から投資に移行する中で、富裕層向けの投資商品としてニーズが高まっているため。特に、2007年から始まる団塊世代の退職金の受け皿として期待をかけている。日本証券投資顧問業協会が集計した契約状況によると、3月末時点で契約総額は3441億円、契約件数は2万3550件で、1件当たりの平均契約金額は約1460万円。」とあります。
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/economy/finance/3980/
では、「証券各社、ラップ口座に照準 顧客争奪戦で体制強化」と題して、競争の始まりを予言しています。「証券業界では、「岩盤のように不動だった大口預金などの資金が証券投資へと流れ始めた」(大手幹部)との手応えがあり、今後、担当者の増員など一層の体制強化に踏み切ることになりそうだ。」ということです。
さて、このように、今後伸びるといわれるラップ口座ですが、乙は、こういうのはまったく契約する気が起こりません。(乙が運用している資金を寄せ集めれば、金額的にはラップ口座に申し込める程度にはなりますが、そんなことはしないと思います。)
その理由を二つ書いておきましょう。
第1に、何といっても、ラップ口座は手数料が高いことです。手数料については、各社のホームページなどを見ても明確に書いていないので、WWWでの第三者による記事から引用します。この点で正確ではない可能性もあります。
読売新聞の記事
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/m_guide/20040511.htm
では、「日興コーディアルグループの場合、【中略】手数料は残高によって異なり、3000万円以下だと、1.785%で、売買のたびに手数料を払うより割安という。大和証券も【中略】手数料は2-3%程度とする方向だ。」とあります。
また、「ラップ口座入門」
http://ow.arehi.com/comp.html
では、日産センチュリーの場合、「手数料は税込で1億円以下で3.15%。1〜3億円で1.575%。3億円超で0.84%の固定報酬制」とのことです。
「ラップ口座(三菱UFJ信託のSMAサービス)」
http://www.fin-bt.co.jp/comment330.htm
では、「MUTBのラップ(SMA)は、【中略】手数料は、投資顧問料と残高手数料で、売買手数料は不要としています。手数料テーブルは公表されていませんが、他の資産運用口座の料金が売買手数料別で、預り資産時価評価の0.8から1.5%程度ですから、2%以上なのでしょう。ノーロード型投信が増えていることを考えると、顧客にとって手数料面のメリットはなさそうです。」とあります。
このように、ラップ口座の手数料は、投資信託と比べてもずいぶん高いように思います。手数料が高くても、それなりの運用をしてくれればいいのですが、扱っている商品は、株や債券、それらの投資信託がメインですから、投資家がどういう指示を出しても、それによってほぼ決まったリターンしか得られないでしょう。オフショアファンドが組み込めるのかどうか知りませんが、常識的には組み込めないでしょう。たとえ組み込めても、そういうのは資産のごく一部でしょうから、ラップ口座のリターンが全体として高くなることはどうもなさそうです。
自分で運用する場合、株や債券のインデックスファンドならば国内でも国外でも手数料(信託報酬)が1%以下で済みますし、外国債券も(口座管理料が)1%以下で済むことが多いと思います。日本の国債は手数料ゼロです。これらを適当に組み合わせるのならば、手数料の合計は運用額の1%で充分です。5000万円を運用する場合、1%と3%の手数料では年間で100万円違ってきますから、これが長期にわたって積もり積もれば相当な大差になります。
手数料の高さを指摘する声はWWWにたくさんあります。
http://frog.blog.ocn.ne.jp/toadstone/2006/09/post_e38f.html
では「単に投資信託パッケージを勧めるだけの一般の団塊世代退職者狙った手数料稼ぎという気がしないでもないような。」と述べています。
http://oshiete1.goo.ne.jp/kotaeru.php3?q=1685951
の回答欄で、mrmk さんがラップ口座の経験上のアドバイスをしています。「少し前に簡単にシュミレーションしてみたら未だに全然マイナスでした。相場がいいときだけ取り出せば良いですし現在はその可能性は有りますが、ラップの維持費が高すぎます。プロが運用しているといっても競争相手もプロですしね(^^ゞ【中略】余程の才能がないと債権でも株式でも結局そんなに儲かりません。結果、少ない儲けを手数料が食ってしまいます。」というわけで、やはり問題は手数料だということです。
ゆうきさんは
http://fund.jugem.jp/?eid=54
で、ラップ口座を「手数料の割高なバランス型ファンド?」とみなしています。個人ごとのニーズに合わせているのでなく、いくつかのパターンの組み合わせでしかないからだそうです。そして、新光証券は資産額に対して年間2〜3%程度の手数料が取られると述べています。結論として、インデックスファンドなど手数料の割安な投資信託を組み合わせて資産運用をすることをすすめ、ラップ口座を否定的に評価しています。
乙の感覚としては、バランス型ファンドというよりは、ファンド・オブ・ファンズのほうが近いのではないかという気がしますが、まあ似たり寄ったりですね。
第2に、ラップ口座を使うことで資産運用を他人に任せることの不安があります。債券でも株でも、自分で投資先を決める方が安心できます。ダメならダメで、自分で判断したことですから、納得できます。しかし、ラップ口座はそうではありません。投資信託も「他人任せ」という意味では同じですが、目論見書などで事前に運用方針などが説明されていますから、それである程度判断することができます。では、ラップ口座では、いったいどこまで丁寧に説明してもらえるのでしょうか。個人ごとに運用方針が異なるということは、そういう説明は個人ごとにするしかなくなります。しかも、個人ごとに投資経験から投資目的まで全部違っているのですから、説明する側は大変です。たかだか数千万円の運用で、そういう個人向けの説明ができる(そういう手間がかけられる)のでしょうか。もしかすると、そういう説明が(時間のムダであり)不要だと考える人がラップ口座を持つのかもしれません。
似たような意見は WWW の中でも見つかります。
ゆうきさんは
http://fund.jugem.jp/?eid=164
で、「運用担当者が自由にアセットアロケーションを変えられる割合は小さくならざるを得ない。」としています。どうしても「できあい」色が強まるだろうということです。また、「株式と債券の値動きも説明しないで、一任勘定を持たせることが、本当に顧客のためになるのだろうか?」という疑問も投げかけています。乙も賛成で、投資は自己責任であり、自分で勉強することが必要なのではないでしょうか。ラップ口座はここを省略することで効率を上げようとするのですが、この結果、どうも、資産運用の大切な部分をなくしてしまったように思います。
ririo2002さんは
http://blog.goo.ne.jp/ririo2002/e/dd28c8cdaaf67f9e841413fd3cfc0202
で、ラップ口座の運用者がそれなりの成績をあげられるかは疑問だとして、「これら金融機関による“個人資産争奪戦”の思惑にまんまと巻き込まれないようにすることが、皮肉にも家計の資産防衛につながる」とまでいっています。
ririo2002さんの挙げるラップ口座の問題点は以下の4つです。
●運用マネージャーは大組織の会社員であって、その実績や経験を調べるすべはなく、たとえお願いしたい人がいても指名・選択できない可能性が高い
●そもそも自分の大切な資産をその証券会社のどんな立場の人が運用判断しているか分らない?〜特に最低投資金額のハードルが下がり小口に広がるほど・・
●運用=資産配分や売買の中身やタイミングについて証券会社から開示されない(開示義務がない)
●特定のファンド商品を証券業者自らが開発・販売しており、預かった資産を自分の商品へ我田引水する懸念が大きい
そして、日本人の資産運用の実態は売る方も買う方もまだまだ未熟だとしています。それを改善するためには、自分で投資経験を積むことが必要になるでしょう。この点で、ラップ口座はまずいわけです。
山崎元氏も、
http://www.ohmynews.co.jp/OhmyColumn.aspx?news_id=000000000865
で、売り手側が実質的に追加的な手数料を抜く(つまり儲ける)ことができることを指摘した上で、「そもそも、自分のお金の運用内容を自分で決めないという形は望ましくありません。ラップ口座は、顧客にとって良い商品ではない、とはっきり言っておきましょう。」と述べています。
この他に、乙の場合は、すでに海外に持ち出した資産がかなりあり、これは国内に戻すと為替手数料がかかって不利になることから、当面国内に戻す予定がないということも、ラップ口座を利用しない理由になると思いますが、これは本質的な問題点ではありません。
なお、村田雅志氏は、ラップ口座が伸びない理由として
http://www.gci-klug.jp/klugview/06/06/09/post_3187.php
において、最低利用金額が高額なことを挙げていますが、乙は、これはちょっと違うのではないかと思いました。1000万円は、投資金額として高額すぎるわけではないでしょう。日本には資産家はたくさんいます。
http://www.orix.co.jp/grp/ps_naru_mail/mail/137.htm
http://www.jma-jp.net/mm/bno.asp?bfile=196
http://www.taxlabo.com/keizaikiji_no_yomikata.htm
などによれば、メリルリンチの調査結果で、100万ドル(1億円)以上の資産を持つ日本の富裕層は134万人もいるとのことです。これに比べたら、ラップ口座の契約件数(2万件少々)ははるかに少ないということになります。やはり、ラップ口座自身が持っている問題点を多くの人が感じているのではないかと思います。
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いつも、丁寧なご説明を拝読させていただき、大変勉強させていただいております。
また、私の稚拙な文章までご紹介頂き恐縮です。
ご指摘の通りラップ口座が伸び悩む理由は、最低利用金額だけではなく、他皆様がご指摘されているように手数料の高さや運用自由度に低さなどなど、(欠点が多いだけに)いろいろとあると思われます。
個人的には、それだけ欠点が多いラップ口座を、金融機関が徐々に販売商品として取り扱い始めたという現象です。日本の個人投資家が、金融機関の思惑通りに動くかは、注目すべき点かと思われます。楽しみですね。
今後もいろいろとご教示のほどお願い申し上げます。
それはそれは大変な「被害」にあってしまいましたね。
8000万円を一任したとすれば10%のマイナスですが、松原さんはいくらくらい運用していらっしゃるのでしょうか。
「投資は自己責任」とはよくいったもので、一任契約では、文句のいいようもないのですよね。
乙が運用しているものでも、プラスもあればマイナスもあります。しかし、自分で決めたことだからということで、自分で納得しています。
他人に任せた結果がこういうことでは、うっぷんのはらしようがないですよね。
乙の感覚では、運用資産がいくらだろうと、全部自分で判断して運用したいと思っています。
私は、日興コーディアルファンドラップで-40%となっています。プロに運用を任せても素人が運用しても-40%ならかわりませんよね。結局、この金融危機もなにもしてくれていなかったも同然のようです。サラーリーマン ファンドマネージャだとこんな物なのでしょか。手数料だけは、しっかりと引かれています。
-40% とは、ずいぶんときびしい結果ですね。
ラップ口座といっても、大したことをしていないといういい証拠です。
こういうラップ口座での運用を続けるかどうかは、利用者側の判断にかかっています。
その後もわずかな利益、大きな損失を毎月繰り返し、動向を見ると人の金を食い物にして、めくらましにタバコ銭を配当金と称して返金してくると確信したので10月末で回収しました。その直後担当営業が自宅へ飛んできて、「1年以内に解約されると成績にならないから取り消してくれ」と言う始末でした。