香港の三つの銀行と一つの証券会社に口座を開設する手順を解説した本です。
しかし、内容がすっかり古くなってしまいました。出版されたときは、有用な面が多かったようにも思いますが、今は読む価値はほとんどないというべきでしょう。テレフォン・バンキングのことがいろいろ書いてありますが、今はこういうのを使う人はいないでしょう。インターネット・バンキングが一般的です。乙は、一読して、こんなにも苦労して香港の銀行を使ってきた人がいたんだなあと感慨を覚えました。逆にいえば、今の私たちが大変恵まれているということです。
乙としては、ところどころにはさまっている「金融シティ香港Note」というのがおもしろかったです。香港についていろいろ勉強できました。
ところで、三つの銀行の記述を読むと、それぞれはだいたい似たような感じです。それはそうでしょう。お互いの間でサービスの種類や手数料に大きな差があるようでは競争に負けてしまいますからね。だとすると、三つの銀行のそれぞれについてさまざまな情報を載せる意味はどこにあるのでしょうか。利用者からすれば、一つの銀行に口座を開設すればそれで充分なように思うのですが、……。本書の記述方針に疑問を感じました。
記述内容は、大変詳しいです。まさに手取り足取りです。そこがこの本の売りなのかもしれませんが、乙は、もう少し簡略でもいいだろうと思ってしまいました。
乙は、HSBC香港に口座を持っていますが、本書を一読して、他の銀行に口座を開く必要はないと思いました。一番ショックだったのは、各銀行・証券会社の送金手数料が高いということです。今は安くなっているのかもしれませんが、ちょっと足踏みしたくなる金額です。p.307 にはマンションハウス証券からの送金手数料が書いてありますが、何と HK$230もするのです。日本円で 3500 円相当です。これでは資金を他に持ち出すのを躊躇しますよね。
また、株式の売買をするとなると、その手数料も高いです。もっとも、p.279 を読むと、香港での株式取引は完全に自由化されていないと書いてあります。だから、日本のネット証券のような格安の手数料が実現されていないのでしょう。事情はわかります。
HSBCインターナショナルでは、英ポンドで運用する場合はいろいろ安くできるけれども、その他の通貨に関してはもろもろの手数料が高くなっています。英ポンドを運用するためだけにここに口座を開設するのもどうかなあと思いました。その手間(トラブルへの対応を含む)をかけたくないのです。
結論からいえば、本当のゴミ投資家としてはいくつもの銀行に口座を開設するのは好ましくありません。ある程度まとめて運用するようにしないと、コストがかかりすぎます。多額の資産を運用する場合は、これらの手数料も大きな問題ではなくなるかと思いますが。
p.337 によれば、著者の中には女性もいるとのことです。乙は、先入観から「海外投資を楽しむ会」は男性ばかりかと思っていました。偏見を持ってはいけませんね。
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